ナイショの恋していいですか？

１４.Ｆ ページ14

もぐもぐと口いっぱいに頬張る姿をジッと眺める。たったそだけのことが幸せで、自然と緩む頬が我慢できない。


Ｋｉ「…見てばっかねぇでお前も食えって。」


ジトッと不満気な視線を寄越しながら、もぐもぐと咀嚼する姿は変わらない。


「…美味しい？」


Ｋｉ「美味いから、ちゃんと食えって。」


「うん、北山が食べ終わったら食べるよ。」


Ｋｉ「…なんで？」


「ん？(笑)ずっと見ていたいから。」


Ｋｉ「っ、いらん！//お前の分も貰うぞ？！！」


慌てふためく北山が可愛い。
可愛いと、素直に感じるのはここだと誰にも咎められないと知っているから。
好きな時に好きだと伝えて、好きだと言ってほしいと強請ってみたら、好きだと返ってくる世界。


……リアルだけど、リアルじゃない世界。
北山がおれの恋人だと実感できる世界。


ここは、そうゆう世界だ。


好きだと言う気持ちを抱えて、どうにもできないと、もがき苦しんでいた時。
古本屋巡りが大好きで、ふらっと立ち寄ったそこで偶然見つけた。
パッケージも何も読み取れなくて、ただボロボロのフィルムに梱包されたそれに強烈に惹きつけられた。


譲ってほしいと店主にお願いしたら、タダで持って行けと言われて。
懐かしいゲームソフトのカタチに触れて何となくログインしただけだった。


…ログインしたら、世界が反転していた。
望む物が、おれの望むカタチでそこに存在していて。


ーーー手を伸ばせば、簡単に触れ合える。


コクンと嚥下された喉元を確認して、じんわりと赤く染まる頬に触れる。


「…好きだよ。北山のことが好き。」


Ｋｉ「っ、ばぁーか！//急になに言ってんだ…、」


「北山は？…きたやまは、おれのこと好き？」


Ｋｉ「っ、…(こくん)//」


「ふはっ(笑)」


笑うな！そう言って、全然痛くないゲンコツが飛んでくる。


なんて、幸せな世界なんだろう。
ずっと、永遠にここにいられたらいいのに。


頭の片隅で、何度も願う。


何度も願うけど、一生叶うことのない願い。


…現実はそう甘くない。


カチッと進む秒針が、イヤに耳に付いて離れない。
北山に気付かれないように、そっと置き時計を盗み見る。


「……きたやま。おれ、そろそろ帰るね。」


不意に溢した言葉に、北山の瞳が寂しそうに揺れる。離れたくないけど、帰らなくてはいけない。


「また明日。」


言いながら、くしゃりと寝癖で跳ねた前髪を撫でて、痛そうに唇を噤むそれに優しく自身のそれを押し付けた。

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