your night.【谷山紀章】

#6 藤田凛【短編】 ページ9

｢.....あー｡なんか､すっげぇな.....｡あんなに歌上手いのに､威張ったりなんて絶対しねぇんだろーな.....｣


小さく呟いて､ホテルのガラス戸を押す｡


中は少し涼しく､いつもより湿気が少なく思える｡気持ちいい｡


エレベーターに乗り､自分の部屋に向かおうとボタンを押す､つもりが｡


｢.....谷山さん.....｣


背後から女性の霊のような声がする｡


嫌な､予感｡


恐る恐る振り返ると､声の主はやっぱり――


｢藤田さん.....なんですか｣


藤田さんは大きく溜息をつき､俺を真っ直ぐ見据えた｡


｢どこ行ってたんですか｣


｢コンビニ｣


こういう時俺は､嘘をつくのに躊躇(ためら)わない｡だって､怖いもん｡


｢何年谷山さんのこと見てきたと思ってきたんですか？今年で7年目ですよ？.....谷山さんのつく嘘が､私に分からないとでも.....？｣


｢.....俺も､7年藤田さんを見てるんですよ｡.....藤田さん､そう言いながらわかんない､でしょ.....?笑｣


藤田さんの恐ろしい攻撃をかわし､部屋に入る｡


女性の霊は思ったよりも綺麗で､まだ化粧をしていた｡


綺麗な金髪は1本たりとも動かずに､俺をその場に留めさせた｡


藤田さんの髪の毛は､目は､不思議と逆らわせる気持ちを消す｡


―綺麗､だよな｡


前髪が長いのであまりハッキリは見えないけど､藤田さんは綺麗な顔をしているし､正直言って金髪も似合っている｡



.....ん､俺､何言ってんだ.....?



1人で恥ずかしくなって1人で悩んでいたら､頭が痛くなってきたので落ち着くまでいつもの藤田さんの怖い顔を思い浮かべて､ベッドの布団をかぶっていた｡


いつの間にか､俺は､寝ていた｡


起きるまで､というか夢にまで藤田さんが出てきた｡


あぁ､何だコレ｡

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