your night.【谷山紀章】

#3 歌 ページ5

夜｡


私の大好きな､夜｡


私は昔から､暗いところが好きだった｡夜になると､元気になる｡


いわゆる､『夜型人間』というやつだ｡


私は､singerとしての仕事を終え､"あの場所"に向かっている｡


言い忘れていたが､"あの場所"とは海だ｡


夜､浜辺で､誰もいない静かな海で｡


歌を歌うのが､大好きだった｡


＊＊＊＊＊


今日もやっぱり､誰もいない｡


ココを選んで正解だった｡




世界中の音が､全部やんで｡


世界は私を､受け入れてくれる準備をしている｡


私は歌が､大好きだ｡



｢さよならなんかは言わせない.....｣
(さよならなんかは言わせない By B'z)



海の輪郭も､色彩も､ハッキリし始めて｡


砂は足を浄化して｡


冷たい､夜｡暗い､夜｡


大好きな大好きな､歌｡


今､私は―




｢あの日を胸に今日も生きていく｣




急に､私以外の声が入ってきた｡


男性の声だった｡



息が､止まった｡逆に涙は､止まらなくなった｡


歌をやっている人でも難しいであろう歌い方｡


キーの正常なコントロール｡



そして､素人では絶対に出せない､声｡


残り全てを持っていかれたが､悪い気はしなかった｡



｢大丈夫?ごめんね､全部持っていっちゃって…邪魔しちゃったでしょ?｣


優しい目で､優しい声で､心配してくれるその人の言葉に―必死に応えようとするけど､どう話せばいいのか分からない｡


ただひたすら､頷いた｡


｢そっか｡じゃ､大丈夫かな｡君の歌―うまかった｡俺も久しぶりに泣きそうになっちゃったよ｡本当に､感動した｣


その人の頬には､涙の跡が残っていた｡


｢じゃあね｡おやすみ｣


言ってしまいそうになるその人の腕を掴んで､訪ねた｡


｢あっ､明日も.....!来て下さいませんかっ｣


その人は､ふわっと笑った｡


｢いいよ｡おやすみ｣








｢..............あれ､あの人の名前.........なんて言うんだろ.........｣

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