検索窓
今日:2 hit、昨日:2 hit、合計:39,682 hit

6 ページ6

翌日、懲りもせず、指定された時間に、例の懐かしのお蕎麦屋さんへと向かった。







お店は一年の時を経ても尚、休業中の貼り紙を掲げたまま。









だけど古びた煙突から、湯気のような何かが出ていて、









「………まさか、」








大丈夫かなと思いつつも、勝手に扉を開けた。







するとそこには、



以前と同じ割烹姿で、蕎麦を茹でる当時と同じ店員さんがいて。









「………あの、」


「……貸し切りなんで、適当に座ってください」









以前のように、真剣にお湯を眺めている。









たった二人きり。


四人掛けのテーブルにちょこんと座った私の元へ、

その店員さんの手によって、一杯のかけ蕎麦が到着した。









「……とりあえず食っててください」





目の前から消えた店員さん。






言われるがままに箸を取る。




以前と変わらないその蕎麦を、一口一口啜る度に、

言葉にならない懐かしさが込み上げる。









突然停電かの如く、電気が消えたかと思えば、一瞬でまた点いて。









目の前に、突如現れた影。









「っ、」








ガチガチにセットされたヘアスタイル、



仕事用とも思われる、紫色のキラキラした衣装。






明らかにアイドルと呼べる姿で、



ただ真っ直ぐ目の前に立っていて。








頰には、少しだけ小麦粉のような白い粉がついている。









「……………あなたは、……誰なんですか?」







恐る恐る尋ねた私に、









「King & Princeの岸優太です」








とただ一言。









それはこれまでこのお店で一度も見たことのない、輝くような微笑みだった。









「……………っ、」









あまりにも眩しくて、



気付けば涙が溢れてて。









前を向けない私を、その人の優しい笑顔が上から包む。









目の前の椅子に腰掛けられ、


二人きりで向き合いながら、









「偶然っすね。俺ここの蕎麦屋大好きなんすよ」



「……はい、」






顔を覗き込まれると、それ以上、会話なんて出来なくて。









それでも、目の前の憧れのアイドルは、


足を組んで肘をついたまま、

ただただ優しい王子様の笑顔で、

私が一杯のかけ蕎麦を食べ終わるまで、じっと見つめていてくれていた。

*→←5



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (178 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
322人がお気に入り
設定タグ:岸優太 , 蕎麦
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

さくら - とても良い作品でした。自然と物語の最後には涙があふれてきました。突然ですが、続編の方を見たく、検索してみましたが見つからず、どのようにしたら見られますか? (2018年12月15日 16時) (レス) id: 0ab5784288 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:踊れる人大好き芸人 | 作成日時:2018年7月20日 10時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。