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翌日、懲りもせず、指定された時間に、例の懐かしのお蕎麦屋さんへと向かった。
お店は一年の時を経ても尚、休業中の貼り紙を掲げたまま。
だけど古びた煙突から、湯気のような何かが出ていて、
「………まさか、」
大丈夫かなと思いつつも、勝手に扉を開けた。
するとそこには、
以前と同じ割烹姿で、蕎麦を茹でる当時と同じ店員さんがいて。
「………あの、」
「……貸し切りなんで、適当に座ってください」
以前のように、真剣にお湯を眺めている。
たった二人きり。
四人掛けのテーブルにちょこんと座った私の元へ、
その店員さんの手によって、一杯のかけ蕎麦が到着した。
「……とりあえず食っててください」
目の前から消えた店員さん。
言われるがままに箸を取る。
以前と変わらないその蕎麦を、一口一口啜る度に、
言葉にならない懐かしさが込み上げる。
突然停電かの如く、電気が消えたかと思えば、一瞬でまた点いて。
目の前に、突如現れた影。
「っ、」
ガチガチにセットされたヘアスタイル、
仕事用とも思われる、紫色のキラキラした衣装。
明らかにアイドルと呼べる姿で、
ただ真っ直ぐ目の前に立っていて。
頰には、少しだけ小麦粉のような白い粉がついている。
「……………あなたは、……誰なんですか?」
恐る恐る尋ねた私に、
「King & Princeの岸優太です」
とただ一言。
それはこれまでこのお店で一度も見たことのない、輝くような微笑みだった。
「……………っ、」
あまりにも眩しくて、
気付けば涙が溢れてて。
前を向けない私を、その人の優しい笑顔が上から包む。
目の前の椅子に腰掛けられ、
二人きりで向き合いながら、
「偶然っすね。俺ここの蕎麦屋大好きなんすよ」
「……はい、」
顔を覗き込まれると、それ以上、会話なんて出来なくて。
それでも、目の前の憧れのアイドルは、
足を組んで肘をついたまま、
ただただ優しい王子様の笑顔で、
私が一杯のかけ蕎麦を食べ終わるまで、じっと見つめていてくれていた。
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さくら - とても良い作品でした。自然と物語の最後には涙があふれてきました。突然ですが、続編の方を見たく、検索してみましたが見つからず、どのようにしたら見られますか? (2018年12月15日 16時) (レス) id: 0ab5784288 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:踊れる人大好き芸人 | 作成日時:2018年7月20日 10時