黄瀬涼太は好きな子にアタックできません8

374話 ページ32

「84対77！挨拶！」


「「ありがとうございました！！」」


パチパチと鳴る拍手


いつも通りの練習なはずなのに、見られているからなんかどことなく違う雰囲気が漂っていて

レギュラーのはずの彼らも緊張しているように感じた



「白河、ごめん、水、取ってもらっていい？」

倒れそうなほど息を切らしてベンチへ戻ってきたのは尾川くん

「あーうん、開いてないからこれ飲んで」と、私もペットボトルを手渡した


「サンキュ」と軽く返事をしてキャップを捻る尾川くんに、「そういえば…」と口を開いた



「順調にいけば、インターハイのレギュラーも夢じゃないよ」

私が呟くと、目を見開いて嬉しそうな尾川くんがペットボトルから口を離した


「まじで！？！」

今日の試合形式の練習では必然的に人数が倍必要になるため彼も試合に出ていた

やっぱり彼は体力があるし、まだまだ伸びる選手だと思う。

だからこそ背中を押してもっと頑張ってほしい

「うん、でも少しドリブルが苦手って感じかな」

私が呟くと、あぁ、と少し落胆した様子の尾川くん

「斎藤くんとかドリブルめっちゃうまいから、一緒にトレーニング組んでおくね！」
私はそう言いながらサラサラとノートにメモを取った


返事をした尾川くんはペットボトルを置いて、私の筆箱からペンを取ってキャップに名前を書き始めた



目線を上げるとふと視界に入るのは黄瀬くんを目で追いかけるギャラリー達


…まあ、ほぼ一年なんだけどね


そしてわたしにも半分くらい視線が集まっていて

もうそういうのも慣れたけど

そんなに黄瀬くんに執着する理由って何なんだろうねぇ

私は他の人にデータを話そうと席をたった



何人かに渡し終わった後も、黄瀬くんはまだシュート練習をしていて

スリーポイントラインからも遠く離れた位置からシュートを放って

乾いた音が響いて、それと同時に歓声が上がる

私たちの部員はみんな黄瀬くんの良さを知ってるから、それに対してキャーキャー言われたいだけなんてクソみたいなやじとばす人もいない


最近黄瀬くんは、パーフェクトコピーをしない状態でのシュートレンジをじわじわと広げていて

本人も緑間くんまでは行かなくても、せめて人にパスを出さなくても遠くから打てるシュートを習得したいと言っていた

少し力が入った変なフォームで打つ彼のスリーポイントシュートを見て、私は思わず声をかけた


「黄瀬くん」

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