か ン け い セ い。【鬼滅の刃】【短編集】

＊ ページ39

　



『う〜ん』





気がついたら朝だった。






寝ぼけて被ったのかかつらから長い髪が数束出ている。







それを丁寧に仕舞うと周りを見回す。


同じ机に突っ伏していた人はここには居なかった。






その代わり窓のそばの縁側にしきられた障子、そこに人影が写り少し動いた。






『まだ、肌寒いのに………』







まだ完全に覚醒していない頭を鼓舞し、閉じかける瞼を擦りながら縁側に近づく。









『まだ、肌寒いよ』




声をかけるが振り向かない。






「………その声はAかい？」




『それ以外誰が居るの、さ…………まさか』







ゆっくりだった歩みを速め、輝哉の隣に近寄ると少し強引にこちらを向かせる。









そこには苦しそうに、



寂しそうに、




悲しそうに、








笑う輝哉がいた。





こちらを見ているつもりのようだけど、焦点は全然あっていない。





もう、目が見えていないことは確かだった。









「本当の見納めになる筈はなかったんだけれどね。」


『……見納めが私でよかったの？あまね様じゃなくて』




「……そうだね。勝手だけど最後がAで、よかったよ。」



　





沈黙は長かった



上り始めてもいなかった日が完全に顔を出すぐらいには長かった








「ねえ、今。Aはどんな表情をしてるんだい？」




私と一緒だったら嬉しいけどな。と言う輝哉の頬には水滴が伝っていた





『……特に、変わりはありませんよ』





嘘だ。声を殺しているだけで、瞳からはらはら涙はこぼれていく






「そう、それは残念だ。」




こちらを振り向くと、輝哉は私の頬に手を添える。





勿論そこには渇ききっていない、

まだ温かい涙が伝っていた



　




「嘘じゃないか」



『そうですね』






「そうだ。五感の一つが失われると、それを補うために他の感覚が良くなると言う話しは聞いたことあるだろう？」






ゆっくりと頬から手が離れると、また遠くを見つめ始めてしまった





「それは記憶にも関係するのかな？……思い出したよ昨日の話。悪いことをしたね」



『いえ』



「ふふ………そのいえは、どういう意味だい？」




『……さあ』





あの時から、いやその前から、ずっと月は綺麗ですよ。




私が言葉にしなかった本心は、なんとなく伝わった気がした









私と産屋敷輝哉は


*ただ愛してしまっただけ*


そんな、関係。

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