か ン け い セ い。【鬼滅の刃】【短編集】

＊ ページ30

ただ走った。何も考えず走る。






甘味処が見えてきて、不安がつのるか振り払って









許されなくても、恨んでいても、構わないだから






謝らせて欲しかった、









　



　




自分の事を忘れているかもしれない





けど









「A！」





美しい黒髪の乙女の腕をつかむ






『………誰です？人違いだと思いますよ』








ああ、再会できただけで、嬉しくて仕方がない。









「謝らせてくれ」





『人違いだと……』









どうしようかと思い、なんとなく彼女の頭に目をやった







「お、お前。その簪………」



『な………………ちゃ………か』




「あ？」








『なんで気がついちゃうのですか！』








そこに刺さっていたのは、彼処を出た日の前の日、つまり彼女の誕生日









その日に渡した、最後の贈り物だった。









『もう、罪な男ですね。三人もの嫁をもって、他の女に簪を渡して……！』









「ああ、」





『思わせ振りな態度をとって！』





「ああ」





『綺麗事を望んで！』







「そうだ」







『もう、大嫌いですよ………』






最後の勢いのない言葉が胸に刺さる。









「俺は最低だ、けれどさ」







彼女の頬に手を伸ばしこちらを向かせる









「っ……」





『幻滅したでしょう』








こちらをしっかりと見つめる彼女の頬の傷跡は凄いことになっていた









「驚いたが、別に関係ねぇ。」




『そう、ですか。』







「なあ、お前にとっては理想論か？そんなにもあり得ない綺麗事か？」








『そうですね。……あり得ません。』






悔しそうに顔を歪め、視線をそらす彼女








「そうかよ。けどさ俺のところに来る気はないか？」









『ふざけ……！』






「ふざけてないぞ。真剣だ」




もう一度俺の顔を見つめ、









口を開く……

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