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傘を持つのは嫌いだった。その日も雨だった。
駅でミヤに連絡を入れようとした時、後ろから傘をさされたのだ。
玉｢1人？俺も1人。一緒に帰ろ｣
自由人と鉢あったのだ。玉とはミヤとゲームする時くらいしか話さなくて改めて2人になると緊張した。ずっと無言だったけれど、やっぱり玉の方が大人のようで話しかけてくれた。
玉｢傘持つの嫌い？｣
｢嫌い｣
玉｢宮田がいつも断られるから、俺嫌われてんのかなって言ってたよ。あと濡れると風邪ひくしさ、横尾さんが心配する｣
皆私の事を嫌っているのだと思っていた。福原さんのお情けで面倒を見てくれているのだと思っていた。いきなり住み着いた私に皆真っ直ぐに向き合おうとしてくれている。その証拠に玉の肩はずぶ濡れだった。
｢分かった｣
玉｢なんなら俺の傘使えば？目立つしAなら大切にしてくれそうだし｣
｢いいの？｣
玉｢いいよ。そんな怯えないでもっと皆に甘えな？｣
帰ってから皆の注目を浴びたのが恥ずかしくて、帰った瞬間自室に駆け込んでしまった。でも私も、彼らと向き合って、一緒にいたいと思えるようになった。雨の予報をミヤに教えてもらうと、あの黄色い傘を持っていった。
その傘を、ある日盗られた。
コンビニでお菓子を買っている間にとられたのだ。派手な黄色い傘だったし走ったしで、すぐに犯人を見つけたが相手が悪かった。
｢返せ！｣
『なっ！なんだお前！』
｢大事な傘なの。返して｣
『離せ！』
突き放された私はアスファルトに倒れ込んだ。
男は走って逃げていった。服が、髪が、気持ちと共にどんどん重くなる。傘をたった1本無くしただけなのに悔しくて、悲しくて、雨に打たれながら帰った。
｢ただいま｣
ニ｢おかえ…は！？びしょびしょじゃん！｣
横｢ちょっと、タオル持ってくるから｣
｢玉…、玉ごめん、傘盗まれた…取り返せなかった…｣
玉｢取り返そうとしてこんな濡れて帰ってきたの？｣
｢うん｣
玉｢ありがとう。おかえり｣
玉も他の誰も怒ったりしなかった。真っ白な大きいタオルで頭をゴシゴシ拭かれて、温かいスープが用意される。
目頭が熱くなるのを我慢して、私は鞄の中からお菓子を取り出す。
｢玉…皆で出来るゲームない？｣
玉｢え、まぁあるけど｣
｢お菓子買ってきたから、皆で食べながら遊ぼ｣
小さな歩み寄りかもしれない。
でもあの日の安堵したような玉の微笑みを、今も私は覚えている。
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作者名：きのこ丸 | 作成日時：2020年11月18日 3時
