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安定しない地盤に足を取られながら、時には玉に引き上げてもらいながら登った先に見つけたのは、軽く雨風を凌げそうな小さな小屋だった。
｢ここ僕の秘密基地なんだ！｣
弾けんばかりの笑顔で、人懐っこいと言えば褒め言葉がだが、驚く程警戒心のないこの子供に私はため息をついた。一先ず生存確認、外傷も無いことを確認して私は誠君に目を合わせた。
｢もし私達が悪い人だったらどうするの？捕まえてどこか知らないところに行っちゃうかもしれないんだよ？｣
｢だって僕このお兄ちゃん知ってるよ？知らない人じゃないもん｣
｢え？｣
｢僕が公園で遊んでたらブランコ押してくれたことあるよね｣
小さな人差し指は玉を指さした。当の本人は眉間に皺を寄せていたが、何かを思い出したかのように手を叩いた。遊んで、と強請られたが対応に困った末にブランコを押してあげたというのだ。子供の記憶力というのは時にすさまじい。
｢今日はね、遊びに来たんじゃないの。お父さんとお母さんが心配してるから一緒に帰ろ？｣
｢嫌だ！｣
玉｢だってここ、ご飯とかお風呂とか無いよ？｣
｢お菓子があるもん！パパとママなんか大っ嫌いだもん！｣
本題に触れると、少年は駄々を捏ね始めた。無理もないし覚悟の上だが、どうしても次の言葉が出てこない。すると今まで黙っていた玉が持っていた袋を開けて中身を取りだした。
玉｢ほら見て、これなんだ｣
｢おにぎり…？｣
玉｢そう、おにぎり！一緒に食べよ｣
促されるまま小屋の中に入り、ほいと手渡されたおにぎりに私も手をつける。ほのかな塩味で優しい。具もコーンバターやベーコンなど少し変わり種だ。誠君もお腹が空いていたのかぐずっていたのも忘れておにぎりにかぶりついている。
1個、2個、食べ終わる度に誠君のつぶらな瞳が涙で潤んでいく。私達も食べる手を止めて顔を覗き込む。おにぎりがパンパンに詰まった口で必死に泣くのをこらえている。
玉｢どうしたの？｣
｢ママのおにぎり…美味しい…｣
玉｢そんな泣きながら食べないの。泣いたらご飯美味しくなくなっちゃうぞ｣
変わり種のおにぎりがお母さんのおにぎりの味だと気付くのにはさほど時間がかからなかったらしい。玉は安心したような笑顔で誠君の涙を拭ってあげたが、泣きそうな時に優しくされると泣いてしまうのが人間。誠君は泣きながら帰りたいと叫び出した。
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作者名：きのこ丸 | 作成日時：2020年11月18日 3時
