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｢もしもし？Aさん？｣
｢もしもし、どうしたの？｣
｢助けて…ストーカーの奴が…刃物持って玄関にいるんだ…！｣
衝撃のあまり道のど真ん中で立ち止まった。
一分一秒を争う事態だが、ひたすら自分に落ち着けと言い聞かせる。
｢分かった、すぐ人連れてそっちに向かうから。家教えてくれる？あと、この電話切ったらすぐに大家さんに電話して事態を伝えて、良い？｣
｢え、他に誰か連れてくるの？そんなんじゃ間に合わないよ…！俺が殺されてもいいわけ？｣
矢先ドアをどんどんと叩く音が聞こえる。随分殺気だっているようだ。確かにこれでは事務所に戻る時間も惜しい。佐藤くんの家に着いたら電話を入れることにして、とりあえず今は佐藤くんの元へ急ごう。
着いたのは大学生が住むには少し大きめにも見えるマンションだった。急いで佐藤くんの部屋を訪ねると想像していた現場とはかけ離れた平和な日常が広がっていた。
｢…え？｣
｢あ、あぁ、Aさん…来てくれたの？ありがとう、とりあえず中入って｣
有無を言う前に腕をぐいと引っ張られて部屋の中へ入った。マンションの入口で覚えた小さな違和感。このマンションはオートロックで、部屋番号がわかって、その家主が許可した人じゃないと家に入れない仕組みになっている。
もし仮にストーカーがここから出たとしたならば、私とすれ違っていてもおかしくない。しかもここに来るまでにそんなに時間はかかっていない。私は玄関で靴を脱ぐことなく、その違和感への答えを探し続けていた。
｢どうしたの？Aさん、早く入りなよ｣
｢ねぇ、佐藤くん｣
｢なぁに？｣
｢ストーカーって本当なの？｣
そのとき初めて目が合った。
いつも柔らかく女の子に向けられる目ではない、動揺した目だ。口も半開きになり、四肢は完全に動きを止めた。黒だ。
｢ここのマンションオートロックだから、普通見知らぬ人間なんか入れるわけないんだよ。刃物持ってるなら尚更、現に私は入る前に佐藤くんと話したしね｣
｢う…｣
｢お遊びはここまでにしよう。依頼費は全額返すから、もうこれ以上しょうもない遊びに付き合わせないで｣
帰ろうとドアノブに手をかけたとき、首元に冷たい感触が走る。次の瞬間、息が吸えなくなっていた。その後だ、コードで首を絞められている事に気が付いたのは。
｢あ…っ…くっ…やめ…｣
｢どう頑張っても手に入らないなら…ここで殺してやる…！｣
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作者名：きのこ丸 | 作成日時：2020年11月18日 3時
