出会い16 ページ16
あいつへの好意に気付いたのは、いつだったんだろう。否、気づかなかったんじゃない。10も歳の離れた相手を好きになるということが、自分の中で認められなかったのだ。
あいつのいない朝がこんなに味気ないとは思わなかった。美味そうな朝食と温かい珈琲と、ジャージ姿でちょこまか動き回るものがない時の虚しさと言ったらなかった。
夜、仕事から帰っても1人。
いつもなら玄関まで来るか、もう夕食の仕上げに入っているはずなのに、物音ひとつしない。
1人には慣れていたはずだった。
そう思っていたのは俺だけで、実際俺の中は寂しいという感情を取り戻してしまったようだ。
体以上恋人未満の女は沢山いた。
大人で俺が言うことをなんでも聞くような奴らばかりだった。それが俺にはお似合いだと言い聞かせてた。
バラエティを可笑しそうに笑う笑顔に、買ってきたケーキに目を輝かせるまだ幼い瞳に、鈴のように可憐な声に、時折見せる凛とした瞳に。
今までの女とは全てが逆だ。何にも染まらない、真っ直ぐで素直なAに惹かれていたのだ。
この間父親がAを襲った時、気を抜けば殺してしまいそうなくらい憎かった。地獄の底に叩きつけたいほど、深く。
この思いを全てぶつけてしまうのはなんとも格好が悪い。いまさら言葉を飾り付けなくったって、きっとわかってくれる。
「好きだ、A。俺の女になってくれ」
Aは黙って下を向いた。
そして今にも泣きだしそうな声でこう言った。
「もう1回、好き、って、言ってください」
「...1度しか言わないって言ったんだがな。仕方ない」
向かい合わせになりもう1度想いを伝えると、澄んだ琥珀色の瞳から涙がボロボロと零れ落ちた。そうして2度、こくこくと頷く。
「私、も...じゅ、とさんが、好きで...す」
「分かったから泣くなよ。ったく、泣き虫は変わらんな」
「笑わないでくださいよ」
手袋を取って涙を拭ってやっても彼女は泣くばかりだ。だが、これでいい。これがAだから。
「泣き虫狐さん、これからもよろしくお願いしますよ」
「いいですよ、悪徳兎さん」
「左馬刻の真似をするな!」
「あ、怒った」
「お前も泣いたり笑ったり忙しい奴だな」
今日は2人で夕飯を作ろう。
もう専属家事代行人なんていう肩書きは要らないのだから。
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きのこ丸(プロフ) - ソラさん» コメントありがとうございます!最近更新できていなくて本当に申し訳ありません。もうそろそろラストスパートをかけていこうと思っておりますのでどうかお楽しみに。これからもよろしくお願いします。 (2019年2月8日 1時) (レス) id: c6e8e226d4 (このIDを非表示/違反報告)
ソラ - 滅茶苦茶自分好みの小説ですごい好きです()これからも全力で応援してます!更新頑張って下さい! (2019年1月17日 20時) (レス) id: 1eb8274d38 (このIDを非表示/違反報告)
きのこ丸(プロフ) - ソーダさん» コメントありがとうございます。お褒めいただき光栄です。ぜひこの後もどきどきを楽しんでいただければ幸いです。これからもよろしくお願いします。 (2018年12月19日 8時) (レス) id: c6e8e226d4 (このIDを非表示/違反報告)
ソーダ - すっっっっばらしい小説ですね!!銃兎さんからの愛情とか設定も細やかで続きがとてもドキドキします!!更新頑張ってください!!!待ってます!!! (2018年12月19日 0時) (レス) id: 995cf675ed (このIDを非表示/違反報告)
きのこ丸(プロフ) - ヒョオ()さん» コメントありがとうございます。先の展開が気になるような話の進め方に出来ているようで良かったです。ぜひこの先もハラハラドキドキして下さい笑。これからもご愛読よろしくお願いします。 (2018年12月15日 11時) (レス) id: c6e8e226d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きのこ丸 | 作成日時:2018年11月28日 17時