消えないで[Ki] (ページ8)

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蜃気楼8 ページ8

｢え？｣

右手に乗った小さな金属塊。
それは紛れもなく鍵で、可愛らしいリスのキーホルダーも付いている。

宏｢とりあえず話したいから中は入れよ｣

｢あ、うん。そうだね｣

整頓されていて清潔感のある部屋、だけど所々に落ちている雑誌や服などが男の子っぽさを感じる。

宏｢テキトーに座って。なんか飲みもん入れるわ｣

｢ありがと｣

ソファに座ってまた鍵を見つめる。
キーホルダーのリスがご飯食べてる時の宏光君にそっくりでついつい笑っちゃう。

宏｢何笑ってんだよ｣

｢え、ごめん｣

宏｢別に謝るようなことしてないだろ。はい、お前の入れたヤツほど美味しくないけど、飲めないわけじゃないから｣

白いマグカップからホカホカと上がる湯気。
中ではたっぷりと入ったミルクがくるくると円を描くように回っている。
私の大好きなホットのカフェオレ。1口飲むと甘くてほっとする。

宏光君は自分のコップに入れたコーヒーを何口か飲んでから私に向き合った。

宏｢その鍵の事なんだけどさ｣

｢うん｣

宏｢ちょっと前から考えてて｣

｢うん｣

宏｢A、3月の末に大学卒業するだろ？そのタイミングで同棲、しよっかなって｣

こんな真面目な話をされているのに、私の頭の中は、宏光君が真面目な話する時のちょっと低い声がかっこいいなってことばっかり。いや、ばっかりじゃない。ちゃんと話聞いてる。

宏｢いい？｣

｢一緒に暮らして迷惑にならない？｣

宏｢なるわけないだろ。ここでお前の料理食べて、お前とおんなじテレビ見て笑って、寝て、起きて、んでお前の顔見るためにここに
帰りたい｣

まるでプロポーズさながらの事をサラッと言う宏光君。なんでこんな恥ずかしいこと恥ずかしげも無く言えるんだろう。

宏｢ちゃんとAの父さんに許可も取りに行くつもりだし。どう？俺と住まない？｣

｢もちろん、宏光君がいいなら私は大丈夫｣

良かった、なんてまた幼い笑顔で笑う宏光君が愛おしくってたまらない。

これからの困難も考えた。
ファンの人に見つからないか、マスコミにバレたりしないか。

でも何はさて、私は今とても幸せだったのだ。