蜃気楼3 ページ3
土曜日の夕方。
雨音が強く窓を叩くようなそんな悪い天気の日に、彼はやってきた。
暇なので高校の課題をやっていた私はドアを開けた瞬間驚いた。顔はいつもみたいに明るくなくてどこか悲しげでびしょ濡れになった彼が立っていた。
高校生になって彼は一気に色っぽくなっていった。髪から雫が滴り落ちてさらにかっこよく見える。...なんて考えてる暇じゃない。
適当にタオルを持ってきて部屋へ招き入れる。シャワーを浴びるように進め、服はとりあえず脱衣場の中に干しておくことにした。
こんな日はあったかいコーヒーがいいんだろうか。落ち着くような甘いホットミルク?あえてアイスレモンティにしようかな。
悩んでいると彼はシャワーから上がってきた。
濡れて色っぽい顔といい、程よく鍛えられた締まった腹筋といい、目のやり場に困る。
宏「羊羹買ってきたから、食おうぜ」
「え、あぁ、うん」
予定変更、今日は温かい日本茶にしよう。
皿に羊羹を盛り付け彼の前へ持っていく。
「宏光君、どうしたの、なんでこんなびしょ濡れになってきたの?」
宏「お前にこれやろうと思って」
袋から取り出された球体に私は目を見やる。
黒と白と少しの泥色が混ざったそれは紛れもなく宏光君の宝物のボールだった。
「なんで、宏光君サッカーは?」
宏「俺ジャニーズ事務所入ったんだ。だからもう、サッカーは捨てる。捨てなきゃいけないんだ」
そう彼は言う。
なるほど、だからあんな悲しそうな顔を。
これは彼の覚悟か。私はそのボールを受け取らずにはいられなかった。
「そっか。じゃあこのボールは私が預かっておくね」
宏「預かる?」
「捨てなくてもいいと思うよ、サッカー。だって、宏光君あんなにサッカーの話嬉しそうにしてくれたじゃん!私はそんな宏光君が...」
好き、言いかけた言葉を飲み込んで玄関にボールを置きに行く。もちろん、彼も連れて。
「ここに置いておくから、サッカーしたい時はいつでも来て。何かのために好きなことを捨てちゃうのは辛いから。だから...、っ」
全て言い終わらないうちに目の前の彼に抱きすくめられる。いつの間にか男らしくなってしまったその背中も腕も少し震えていて啜り泣く声が聞こえた。
宏「ごめん、A。だけど少しだけ、こうさせて」
焦った末、震える彼の背中に手を回してあげることしかできなかった。
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作者名:きのこ丸 | 作成日時:2018年7月1日 22時