狼と猫-黄橙- ページ9
狼と猫-黄橙-
今日は屋外の撮影のはずだったのに、ごまかせないほどの曇天で急遽屋内に撮影場所をセットしなおした。
スタジオの外での撮影はハプニングもつきものだから臨機応変に対応できるように準備はしてあるけど、今日はきらきらのスイーツを自然光の下で撮りたかったから、天気予報もしつこいほど確認したのに。
ついてない。
「お店の中をお借りすることになってしまってすみません。夜の営業までには必ず終わらせますから」
今日取材でお邪魔した洋菓子店は、昼はテイクアウトとイートインのカフェで、夜はお酒も出すダイニングになるらしい。
その営業の合間に取材をさせてもらうわけなので、時間は限られていた。
「ぜんぜん大丈夫ですよ。かわいく撮ってくださいね」
茶目っ気たっぷりにそんなことを言ったコックコートのパティシエさんは、私に向かってニコニコとほほ笑んだ。
『きらきらのイケメンパティシエが作るきらきらスイーツ』
ボツ決定のセンスのかけらもない見出しが頭に浮かんだところで、コックコートのネームプレートが目に入った。
『maru』
「まる」
「はぁい」
しまった。思わず声に出してしまって、ペットを呼んだみたいになってしまった。
「あっ、失礼しました。マルさんとおっしゃるんですね」
丸「マルさん、はあんまり言われへんなぁ。マル、とかマルちゃんとかですよ店では。ニックネームみたいなもんですけどね」
丸「好きに呼んでください」
そう言って眼前に出された手。
お手?
丸「お姉さんお名前は?」
ハッとして慌てて名刺入れを取り出す。もう、きらきらに当てられているのか今日はなんだかぼーっとしている。
「失礼しました。今日は取材を受けていただいてありがとうございます」
彼の差し出された手のひらの上に自分の名刺を乗せた。
丸「Aさん、よろしく。仲良うしてくださいね」
そう言ってまたニコッと笑うマルさん。笑顔が眩しい。
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作者名:きりん虫 | 作成日時:2020年7月6日 21時