破れた傘にくちづけ 0 序章 (ページ11)

今日:1 hit、昨日:41 hit、合計:58,304 hit

3 ページ11

.

物撮りが終わって、少し時間が経ってしまったスイーツを味見する。

ここから記事を起こすのは私の仕事で、これを美味しそうに、読んだ人がお店とスイーツに興味を持ってくれるような文章にして、世に出すのが、今日元気をくれたマルさんへの恩義。

「おいしい」

それは、時間が経ってちょっと残念な見た目になってしまったにも関わらず、本当に美味しかった。

美味しいものは元気をくれる。

決めた。やっぱり今日、あのBarに行こう。

エイトは、駅と家のちょうど真ん中あたり、細い路地に入ったところにひっそりと存在していた。

通勤のためにほとんど毎日この路地の前を通っているのに、全然気づかなかった。

いざ入るとなると、やっぱりちょっと緊張する。

私はさっきから店の前で入るのを躊躇していた。

すると、店の前に停まっている緑のワーゲンバスの下から、ミカン色の猫がスルリと出てきた。

にゃあ、と鳴いて、私の足に体を擦りつけた猫は、そのままぐいぐいと私の足を押す。

背中ならぬ足を押されている。

「わわ、ちょっと。わかったわかった」

行きますよ。ここまで来たんだから絶対行くけども。

.