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次の土曜日は、錦 戸さんと約束をしていた。
人気のレストランのウエディング試食会。
私は友達の結婚式や取材でも何度か来たことがあるお店だけれど、今日は仕事なのかプライベートなのかよくわからない。
休みの日に付き合ってほしいと錦 戸さんに誘われて、おいしいものが食べられるならと思ってのこのこついてきたのはいいけれど。
店の前には開店を待つカップルが長蛇の列を作っていた。
「なんか申し訳ない」
錦「なにが」
「ここにいるカップルはみんな自分達の結婚式のために抽選を勝ち抜いて来てるのに」
錦「俺も正当に応募して抽選を勝ち抜いたんやけど」
そういう問題じゃない。結婚する気もないのにここにいるのが申し訳ないの。
錦「俺らも独身の男女やで。俺に誘われて何とも思わんかったん?」
「 “仕事の一環やから”って前置きして誘ってきたのは錦 戸さんでしょ。何言ってんの」
誘われた時、ほんとはちょっとだけドキッとしたけれど、お店の名前を聞いたら考えは別のところに飛んだ。
このレストランには1年くらい前に友達の結婚式で来たことがあって、心残りがあったのだ。
あのとき
私はデザートを食べ損ねたから
…あれ、でもなんであの時、デザートを食べられなかったんだっけ。
「ところで今日デザートまであるよね?」
錦「あるある、心配すんな」
ピコン、と錦 戸さんの胸元で通知音が鳴って、彼がニヤニヤしながらスマホを操作する。
錦「A、今日誕生日やろ?」
「…うん」
知ってたのか。
誕生日に何の予定もなく一人だから、かわいそうだと思って誘ってくれたのかな。
錦「あとこの前、さみしいから動物飼いたいって言うたよな。飛ぶやつ」
「ねえ、なんの話をしてるの?」
錦「誘っといてなんやけど、ちょっと急用ができた」
「はっ?」
錦「知り合いと交代するから、その人と食べて」
「え、だれ?知ってる人?」
ヤス君かマルさんかな。
彼は私の問いには答えないでニヤッと笑った。
「ちょっと待って。錦 戸さんが来たいって言うから来たのに」
錦「でもデザート食べたいんやろ?」
うっ、まあ、それは。
急に並んでいた列の女の子たちがザワザワしだして、道の向こうに色白の背の高い男の人が立っているのが見えた。
遠目でもわかる、モデルみたいな容姿。手には赤いバラの花束。
こっちに向かって歩いてくる。
目が合った気がして、急に胸が早鐘のようになりだした。
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きりん虫(プロフ) - 優貴さん» 優貴さん!バタバタ終わらせてしまってすみません(汗)また番外編など書きに戻ります!コメント頂けて嬉しかったです、こちらこそありがとうございます。 (2020年6月19日 7時) (レス) id: 3c36dba7b1 (このIDを非表示/違反報告)
優貴(プロフ) - 遅くなってしまいましたが、お疲れ様でした。とても大好きなお話だったので終わってしまったという寂しさはありますが、きりん虫さんの作品をまたひとつ読み終えた喜びでファンとしてはたまらない気持ちです(*^^*)two of usも楽しみです、ありがとうございました。 (2020年6月18日 22時) (レス) id: 71e80fd819 (このIDを非表示/違反報告)
きりん虫(プロフ) - 美緒さん» 美緒さんありがとうございます^ ^楽しんで頂けてよかったです! (2020年6月18日 19時) (レス) id: 3c36dba7b1 (このIDを非表示/違反報告)
きりん虫(プロフ) - まゆまゆさん» まゆまゆさんありがとうございます。コメント見逃してました!今ちょっと番外編に取り掛かっていていつになるかわかりませんが、気長にお待ちください。 (2020年6月18日 19時) (レス) id: 3c36dba7b1 (このIDを非表示/違反報告)
美緒(プロフ) - すごくおもしろかったです!! (2020年6月18日 9時) (レス) id: 487cbba7f0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きりん虫 | 作成日時:2020年5月24日 7時