冬虫夏草

忠義・新雪　 ページ35

忠義・新雪

*

12月。


去年の豪雪が嘘のように、今年は雪が少ない。


もっとも外の空気は冷たくて、朝には地面が霜でかちかちになり、車の窓も凍る。


昔は家の窓の結露に悩まされたけれど、今は忠義が新しい二重窓に替えてくれたおかげで結露もないし暖かい。



忠「今日の夜何食べたい？」


「寒いから、鍋とか？」



家に来て早々に夕食の事を聞いてきた忠義にそう言ったら、彼はちょっと不満そうな顔をした。



忠「今日何の日か覚えてへんの？」


雪のない快適な12月の平日。カレンダーにも目立った変化はない、普通の一日。



「なにかあったっけ？」


忠義の誕生日は5月に終わったし、クリスマスは来週。



忠「今日で1年」



そう言ってそっぽを向いてキッチンに行ってしまった忠義。



そうか。雪がないから、失念していた。


1年前の今日、私はここに帰ってきたんだった。








**

夕食はいつもと同じでいい、と言った私をきれいに無視して、忠義は私を連れて買い物に出た。


熊みたいなジープに乗せられて、いつものスーパーを越えて大きな新しいショッピングモールに運ばれる。


高級な食材が並ぶモールの食料品街に行こうとしたら、「そっちは後で」といなされてアパレルやジュエリーショップが並ぶフロアへ誘導された。



ショーケースにはきらきら光る石。華奢なフォルムのきれいな輪。


忠「ええのある？」


「ううん、指輪とかはちょっと。忠義もでしょう？」



手を使う仕事だから、指輪やブレスレットは何となく避けてしまう。


それに、私には眩しすぎる。見とれるほど、きれいではあるけれど。



忠「似合うと思うけど」


「そうかな」


忠「お、その気になった」


「ちょっと、なに」


忠「欲しくなったら買うたるわ。俺が」



真面目な顔でそんなことを言う。


今日の忠義は甘い。


私は、彼が今日を記念日だと思ってくれているのがこそばゆくて、嬉しい。







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