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あの事件から一ヶ月、中原がAの病室に姿を見せたのは今日が初めてなのであった。というのも、別に「フィアンセをもっと早くに守れなかった自分が情けなくて会いに行けない」なんていじらしい理由があったわけもなく。ただ単に、その事後処理に追われていたのである。その事後処理というがとにかく膨大な時間がかかった。方々へ協力を頼み、ついでに芋ずる式で発覚した傘下組織の謀反であったり反発団体の抗議などを抑えていたら、一ヶ月が瞬きの間に終わっていたというわけ。

 そして今回のこの事件の担当は中原が自ら立候補して彼に決まったので、本当に忙しく過ごしていたというわけである。それはもう、愛しの婚約者のお見舞いに一度も来ることが出来ない程度には。

 まあ勿論、それには面会可能時間と休みの時間が合わなかったとか、そもそもAが入院している病院が途方もなくヨコハマから遠い場所にある(医師免許を持たない所謂ブラックジャックみたいな医者ばかりを抱えている違法医療機関であるから)とか、理由は色々あるのだが。

 Aからしてみればそんなことは百も承知であるし、ピョコちゃんから自分を救出してくれたときのことは驚くほど詳しく聞き及んでいるので、彼に対する感謝はあれど批判などあろうはずもないのだが。中原としてはさすがに分が悪いようで、一段落した先程、追加で渡された書類やらを全て燃やして無かったことにして、ここまですっ飛んできたのである。

 大きく開いたスライド式のドアがバン!と大きな音を立てて跳ね返った。戻ってきたドアを左足で抑えた中原は、いつも通り真っ黒の服を着ているが───どうも今日はカラフルな装飾がされてあった。

 右手にはAの好きな有名パティスリーのケーキボックスを持ち、左にはAの小さな顔が丸々隠れるほど大きな花束を抱えていた。
 急な登場に驚いたAはもう一度中原の名前をぽそん…と自信なさげに呟いた。

 中原はズカズカと病室へ入り込むとケーキの箱をテーブルに置いて、包帯の巻かれた場所を避けて松葉杖ごとAを持ち上げ。


「えっ?」


 花束と共にベッドへ沈め。


「ワッ」


 Aが久々の再会を喜ぶ声より先に、彼女の上へ重なって、深く口付けを落とした。

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落蕾 - 沢山更新されていて、歓喜しました!一話一話に文字数も多いので、読みごたえがあって、やっぱり大好きです!これからも応援してます! (4月5日 0時) (レス) @page28 id: 32354343cf (このIDを非表示/違反報告)
アボカドサラダ(プロフ) - 落蕾さん» いつもコメントありがとうございます。今回はまだ明るいお時間にお読みくださったようで、安心しましたᵔ-ᵔ 今後ともよろしくお願いいたします。 (12月20日 18時) (レス) id: cf05fdb6e7 (このIDを非表示/違反報告)
落蕾 - 更新して頂き、ありがとうございます!!おかげさまで、喉が潰れるまで叫びました!!とても面白かったです!これからも応援しています! (12月19日 15時) (レス) @page19 id: 32354343cf (このIDを非表示/違反報告)
アボカドサラダ(プロフ) - りんねさん» コメントありがとうございます。いちばん好きだなんて、とても勿体ないお言葉です( ; ; ) これからも応援していただけると嬉しいです。 (12月16日 20時) (レス) id: cf05fdb6e7 (このIDを非表示/違反報告)
りんね(プロフ) - いちばん好きです!!!応援してます!!! (12月16日 19時) (レス) @page17 id: daaae51289 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アボカドサラダ | 作成日時:2022年10月10日 14時

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