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さて申の刻(19時)。
見るからに高級車であろう黒い車が三台、静かに発車した。中には綺麗に着飾った女が2人と、上等なスーツに包まれた男が3人。どれもマフィアの人間である。目元を煌びやかなヴェネチアンマスクで彩り、彼ら彼女らの素顔は分からない。しかし口元だけが怪しく弧を描き、個々の艶やかさを派手に演出していた。
「痒い。マスク外していいですか? せっかくアイメイクに気合い入れてきたのに、全部隠れてちゃ意味ないじゃない」
「こらこら。2時間の辛抱じゃ」
「いやでも。せっかくカラコンもお気に入りの付けてきたのに!」
「マそれは仕方なかろ。先方も普段通りでは飽きるんじゃろ」
「じゃあもっと早く言いなって話ですよねえ」
Aは不満げな顔をして、マスクが肌にあたる箇所をポリポリかいた。
彼女は太ももまで大きくスリットの入ったワインレッドのロングドレスを身にまとい、見事な大人のレディになっていた。対して尾崎は、いつもの和装がさらに華やかに・上品になっている。和服に詳しくないAでも、多分メチャクチャ高いんだろ〜な、と頭の隅で思っていた。
中原や首領に至っては、値段を聞くのも怖い。一見いつもの三つ揃いと違わないように見えるけれど、そんな常用スーツを着てくる訳もないので。よく分からないけど、多分一生買うことないような値段だということは、Aの頭でも容易に想像できた。
ふと窓の外を見る。市街地を離れ、脇に逸れた一本道を道なりに進む。すると遠くに煌々と光が見えた。あれが件のヨシザキ邸である。
「……で、えっと。私、普通にご飯食べてて良いんでしたっけ」
出る前に確認したことを繰り返す。相手との会話がなくなった時の、彼女の癖のようなものだった。
「そう、Aはとにかく自然に…何も知らんという顔をして楽しんでおれば良い。」
「中原さんと尾崎さんがどうにかしてくれるんですよね。首領はヨシザキさんの相手をするって」
「ほほ。そんな心配せずとも、頼りない訳じゃなかろ」
「そりゃそうですけど…」
「挨拶をされたら返して、軽く談笑して。下品な男なら応じる必要も無いがの。適当にやっておれば、中也あたりが上手いこと収める。あくまで目的はあちらの頭だけじゃ」
「う〜ん…」
結局、こんなに着飾ってもAの仕事は単にパーティーを楽しむだけである。しかし残念ではなく、寧ろ不得手な暴力を使う羽目にならなくて良かったと思うのであった。
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アボカドサラダ(プロフ) - 抹茶あいすさん» 嬉しいお言葉を沢山ありがとうございます! そうですよね、私も甘い対応が多いと思うのですが夢主はそう思ってないみたいです笑 これからもよろしくお願いいたします! (2022年7月25日 19時) (レス) id: cf05fdb6e7 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶あいす(プロフ) - そんな素振りなかった、みたいなこといってますけどだいぶ甘かった気がするのは僕の気のせいでしょうか?こういった話はあまり読まないのですが、文章が読みやすくて、面白く読ましてもらってます!!更新頑張って下さい!! (2022年7月25日 16時) (レス) @page45 id: f01e2a172c (このIDを非表示/違反報告)
アボカドサラダ(プロフ) - 白ちゃんさん» お読みくださりありがとうございます! (2022年7月21日 18時) (レス) id: cf05fdb6e7 (このIDを非表示/違反報告)
白ちゃん - 面白かったです。 (2022年7月21日 18時) (レス) @page41 id: 0a2f8cc4e7 (このIDを非表示/違反報告)
アボカドサラダ(プロフ) - ゆなんさん» 憧れだなんてありがとうございます! 夢主も喜んでいます。文章についてもお褒め頂き嬉しい限りです。マフィアは大変ですが実力さえあれば大量の金銀が手に入る世界ですからね^^ 頂いた言葉を胸に更新頑張ります! (2022年1月21日 8時) (レス) id: cf05fdb6e7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アボカドサラダ | 作成日時:2021年9月18日 12時