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「知ってますよ中原さん今日は午前休でそこの駐車場に新車のランボルギーニ停めてるの! 乗せてください! ついでに駅まで送って!」


 当たり前だが返事はない。いくら扉を叩けども物音ひとつ立たない扉の向こうに、Aは暫くドンドンと叩き続け、次の一打ちをしようとしていた右腕をはたと止めた。これ以上叩き続けて隣の部屋の人が起こりに来たら大変だし(隣の部屋には補佐のめちゃくちゃイカつくて怖い男が暮らしている)、何よりあの中原がここまでの騒音に気付かないわけがないと思い至ったのである。
 とすると考えられるのは『中原が最初からこの部屋にいない』ということだが───それはあまり考えられない選択肢だった。なぜなら彼女は昨晩、短期の任務を終えて膨大な量の報告書を仕上げるために二徹し、やっとこさ部屋に戻ってきた中原とこの廊下で鉢合わせているからである。あまり見たことのないいつもとは違った怖さの無表情で「今夜くらい静かにしてくれ」と言い残し、Aが「なんですか?」と聞き返す暇もなく部屋の奥へバタンと消えていったのである。あそこまで疲れ果てている中原は久々に見たなあとAは思った。
 まあつまり、そんな疲労困憊の中原がこんな朝から起きて───つまり部屋の外に出ている───わけがないと決めているのである。

 それは半分当たりで、半分不正解であった。

 暫くAは扉前でウームと思案したあと、やはりこの中に中原はいるはずだと考え、部下に持たせていた鞄からキーケースを取り出し、そしてその中のひとつのカードキーを中原の部屋の認証機へと差し込んだ。
 かちゃりと軽い音がした後に呆気なく開いた扉を押すと、自分のよりも少し広いだけでほぼ同じ間取りの部屋へと入った。同じ間取りとは言えインテリアの置き方や壁紙の色まで違うのだから、実際入ってみると全くの別室である。落ち着いた色味で揃えられた家具と壁紙を見て、Aは『センスはいいんだな』とぼんやり考えた。
 ずっと奥、自分が寝室として使っている部屋に一致する部屋からは薄らと人の話し声が聞こえる。小さな音だがテレビの音だとAは気付いた。

 容赦なく部屋の奥へ入る。中原の寝室だろうそこへも臆することなく立ち入ることができるのは、多分このマフィア内にも限られた人数しかいない。
 その一人がAである。

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アボカドサラダ(プロフ) - 抹茶あいすさん» 嬉しいお言葉を沢山ありがとうございます! そうですよね、私も甘い対応が多いと思うのですが夢主はそう思ってないみたいです笑 これからもよろしくお願いいたします! (2022年7月25日 19時) (レス) id: cf05fdb6e7 (このIDを非表示/違反報告)
抹茶あいす(プロフ) - そんな素振りなかった、みたいなこといってますけどだいぶ甘かった気がするのは僕の気のせいでしょうか?こういった話はあまり読まないのですが、文章が読みやすくて、面白く読ましてもらってます!!更新頑張って下さい!! (2022年7月25日 16時) (レス) @page45 id: f01e2a172c (このIDを非表示/違反報告)
アボカドサラダ(プロフ) - 白ちゃんさん» お読みくださりありがとうございます! (2022年7月21日 18時) (レス) id: cf05fdb6e7 (このIDを非表示/違反報告)
白ちゃん - 面白かったです。 (2022年7月21日 18時) (レス) @page41 id: 0a2f8cc4e7 (このIDを非表示/違反報告)
アボカドサラダ(プロフ) - ゆなんさん» 憧れだなんてありがとうございます! 夢主も喜んでいます。文章についてもお褒め頂き嬉しい限りです。マフィアは大変ですが実力さえあれば大量の金銀が手に入る世界ですからね^^ 頂いた言葉を胸に更新頑張ります! (2022年1月21日 8時) (レス) id: cf05fdb6e7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アボカドサラダ | 作成日時:2021年9月18日 12時

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