柱の少女の物語３〈鬼滅の刃〉

水面が揺れた ページ43

これは、冨岡義勇が柱に就任した直後のお話である。




「きらり。義勇を彼の屋敷まで案内してあげてくれないかな」

そう頼まれたので只今絶賛ご案内中、だった。


これが彼との初対面だったので、一応自己紹介までした。
が、彼からの返しは無。

私から聞かなければ自分のフルネームすら言わない。



過去を知っている分、心情はお察しするけどここまで心を殺しているとは思わなかった。


無事に案内を終えて去り際のこと。


こんな状態の彼に対して、今は響かないかも知れないが言葉をかけた。





「貴方が怪我したら私が必ず治すから。
お互い、毎回生きて必ず会おうね」


その言葉をかけた後、今まで一度も合わなかった目線がゆっくりと交わった。


やっと自らの口から出た言葉は、全て自分を否定するものだった。


「俺は柱になっていいような人間ではない。
偶々選ばれてしまった、出来損ないが上手くやり過ごしてここまで来てしまった。
ただ、それだけだ。

もう俺に構うな。怪我も治す必要はない。
俺のような奴は放っておけばそのうち死ぬ」



その瞳の中は、無。
光の届かない深海。私ですら映していない。


私の方を見ておきながら、私を映さない。




おかしい。その認識は間違っている。
ここまで自己肯定感がないとは。


自分の努力を自分が否定してどうする。
自分が自分の命を諦めてしまっていてどうするんだ。



本当によくそのメンタルでここまで生き残ってきた。
今の義勇には折れそうな時に踏ん張れる支えが一つもない。



非常に良くない。
私の前で誰かが自ら命を諦めようとするなんて私が許さない。


わたしは自分の言いたいことだけ吐いて屋敷に入ろうとする義勇の手を掴んで止めた。


彼は無表情で振り向く。


止まってくれた。
それだけでも、良い。



「ちょっと待って。
冨岡くんがそう思っていたとしても私はそう思わない。

私なんて、その一族に生まれたが故の地位だよ。

少なくとも冨岡くんは正当な手段を踏んで柱に選出されている。実力者だ。


そしてこの先、冨岡くんがその気持ちのままで戦いに出るのは私が許せない。

耀哉から聞いたと思うけど、私はいずれ継続的に君と一緒に仕事をすることになる人間だよ。

どうかそんなに自分で自分を落とさないで。
過去に生きないで。今を見て」


何と伝えればよかったんだろう。
上手く言葉が出てこなかった。


でも、冨岡義勇には、出来るだけ早く過去を払拭して欲しかった。


自分を赦してあげて欲しかった。

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