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この店にやって来る人は本当に疎らだ。
立地のせいもあって隠れ家的な雰囲気がある。
だから客がいない時間の方が多いし、収入も沢山にはならない。
その事で時雨が困る事は無いと理解こそしているが、時雨の性格、と言うより性質上、食事、身なり等に気を遣うことが殆ど無い為、こうやってたまに見に来ないと心配になる。
少なくとも月に一回は訪れていたが、ここ数ヶ月多忙を極め、来る事が叶わなかった。
実に三ヶ月ぶりに会った時雨はまた華奢になっていた。
髪は1度揃えたくらいだろう。
透き通る白い肌は滑らかで、相変わらず整った顔立ちをしている。
「彼方……?」
ぼんやりと本棚の前に立って本の背表紙を撫でていると後ろから声を掛けられた。
「その本、懐かしいね……。」
「え……?」
その言葉につられて何となく触れていただけの本を抜き出す。
まだ幼い頃の時雨に読んであげた童話だった。
シンデレラ。
あの頃から時雨は美しく愛らしかったし、自分もずっと女の子だと思っていた。
時雨が中学に上がる時に時雨が女でない事を初めて知った。
時雨の母は長子である時雨の兄をを産んだ後、酷く女の子を望んだ。
四月の終わり、通り雨が柔らかな花々を濡らす午後にその情景の名を与えられたのが時雨だ。
時雨の身の回りのものは全て女の子用のもので準備され、それは時雨の母によってそのまま時雨の成長の糧となった。
幼い頃からぬいぐるみと人形を抱き、柔らかなワンピースを着て母に結って貰った髪に白いリボンをそっと結ぶ。
それが時雨の幼少期だった。
時雨の兄と同級生だった彼方は生まれた頃から時雨を知っていた。
よく見知った友達の「妹」を女と信じ疑わなかった。
時雨のために絵本を持って行くと、時雨の母は喜んだ。時雨は本物のお姫様の様に愛らしかったから、西洋のお姫様が出てくる童話を選んだのが、時雨の母には嬉しかったのだ。
そして読み終わると、時雨を抱いていた彼女は毎回必ず「時雨の王子様はきっと彼方くんね、」と笑った。
時雨も幼い頃はそれを信じていたようだったし、自分もそうだと信じていた。
時雨は小学校を卒業するまで長い黒髪に白いリボンを揺らしていたのだ。
ピンク色のランドセルを背負って行ってきます、と道で会う度に手を振っていたのだ。
小学校の卒業式にも柔らかな桜色のワンピースに艶やかな赤い革靴を履いていた。
でも、その数日後に彼方は自分の目を疑う事となった。
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作者名:雲英 | 作成日時:2017年11月4日 10時