第六十九訓 ページ2
今日もいつも通り、土方とAは副長室にいた。
「だいぶ減ってきたな」
「ここ数日、この部屋に缶詰だったから…」
溜まりに溜まっていた書類を片付けるべく、2人は数日間副長室に篭っていた。
その努力の末、やっと書類を減らすことが出来た。
「そういえば伊東さんが帰ってきたらしいな」
Aのその言葉に土方はあ?と眉を上げる。
「お前なんでさん付けなんかしてんだ、俺にはしねぇだろ」
「土方は私の直々の上司だからいいかな、と」
自分の嫌いな男が、自分よりもAに敬われているようで気に食わないらしい。
イライラとした雰囲気を漂わせる土方を無視し、そういえばとAは話を変えた。
「土方、お前刀を見てもらうんじゃなかったか?」
刀を長く使うためにはメンテナンスが必須である。以前、近いうちに行かなければと土方が言っていたのを思い出した。
「次書類がここまで少ないのは、いつかになるか分からないぞ」
いまから行ってこい、と遠回しに告げた。
少し渋ったが、Aの言い分は最もである。
「悪ぃな、いってくる」
「いってらっしゃーい」
横に置いてあった刀を持ち、土方は鍛冶屋へと向かった。それを座ったまま見送ると、再びAは書類へと取り掛かった。
数時間後、ほぼ書類が片付き終わった。背中を伸ばすと、そういえば、と土方の帰りが遅いことに気づいた。机の上を軽く片付け自分の部屋に戻る途中、向かい側から2人の隊士が歩いてきた。
「しかし、副長のその話は本当なのか…?
あ、補佐!」
話をしていた2人はAに気付くと、お疲れ様です、と挨拶をした。
「あぁ、ところで土方の話って何か聞いてもいいか?」
土方になにかあったのだろうか。Aは聞こえた隊士達の話が気になった。
2人は顔を見合わせると、本当かは分からないのですが、と前置きをして話し始めた。
「先程、副長が伊東さんと屯所に戻られたんです。なんでも、浪士共に囲まれる土方さんを通りがかった伊東さんが助けた、と…」
土方と伊東の不仲は隊の中でも有名である。助けられるなんて土方のプライドが許さないだろう、昔から土方を知っている隊士はこの話を信じられずにいた。
「そんなことが…
まぁ噂は噂にすぎない、あんまり気にしないで欲しい。教えてくれてありがとう」
心配そうな顔をする隊士に礼を言うと、今度こそAは自分の部屋へと戻った。
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ラナ(プロフ) - とても面白かったです!!更新頑張ってください!! (2021年6月16日 22時) (レス) id: cc87573d3c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黄羅 | 作成日時:2021年2月16日 0時