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目的と帰る ページ9



 「ただいまー」

 出て行った時よりも憂鬱な気分で開けた玄関は心なしか重かった。藍も一言も喋らず、俺の後を只々来た。

 「おかえりなさい……て、あら、お友達? まあまあまあ、今日はいつもより早く起きるし何処か遠くの所へ行くって言っていたから、一体如何してのかと思っていたけど、そういうことだったのね」

 「え、あの」

 若しかして、見えてる……?

 小さくてつぶらな目を嬉しそうに細め、塔子さんは驚く藍を玄関に上げた。慌てふためく藍の腕からほおり投げられたニャンコ先生は無事俺がキャッチし、塔子さんは朗らかな笑顔で「貴志君、手を洗っていらっしゃい」と言って藍と共に奥へ消えて行った。

 「ニャンコ先生。如何いうことなんだ?」

 洗面所で手を洗いながら、俺は肉球をマットで拭いているニャンコ先生に訊いた。声に棘が刺さっていることが自分でも分かった。

 「さあな。駅前の時にも言ったが、彼奴はああ見えて結構力のある奴だ。何かの拍子に霊力が全くない人間に見えても可笑しくはない。寧ろ、今まで見えなかったのが気になるな」

 「如何いうことだ? ニャンコ先生」

 力が強い者は自由に自分の姿を現すことが出来るんじゃなのか?

 そんな俺の疑問を分かっていたかのようにニャンコ先生が続けた。

 「いいか夏目。力が有る者は確かに自由に自分の姿を現すことが出来る。だがな、それは自分の力をきちんと認識している者だけだ。彼奴は、それが出来ていない。藍は自分の力の偉大さを分かっていないのだ」

 「分かっていない?」

 「ああ。全くな。だから彼奴は力の制限が出来ない筈なんだ」

 「だから霊力がない一般人にも見える、ってことか?」

 「まあな。だからこそ不思議なのだ。彼奴が何故今まで人間に見えなかったのかな」

 ニャンコ先生のその言葉に俺は先程の藍を思い出した。禍々しい靄に包まれ不気味に笑っていた藍。先生は気付かなかったのだろうか。
 俺が、そのことを先生に言おうとするとそれに被って「貴志くーん、終わったかしらー?」という明るい塔子さんの声が俺の鼓膜を震わせた。

 俺は咄嗟に「はーい」と返事をし、毛並を綺麗にしている先生をぞんざい抱えダイニングへと急いだ。

 「夏目。遅かったな」

 「ああ、悪い。先生が一寸な」

 有りもしない濡れ衣を着せられた先生が俺の裾をガジガジと噛む。そんな先生には構わず、俺は小さい声で藍にある事を訊いた。これは、藍の話を聞いた時に湧いた純粋な疑問だった。

*→←異変


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設定タグ:夏目友人帳 , 塔子さん , 片想い   
作品ジャンル:恋愛
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作者名:ニャンコ先生 | 作者ホームページ:http:/  
作成日時:2017年9月18日 14時

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