海が綺麗ですね ページ4
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「うぇーい、海だ海だ！」
「うぇーい」
八月上旬。夏休みももう一週間も過ぎた頃、現在進行形で付き合っている彼女の結衣から突然、海に行こうと誘われた。宿題もまずまずと言ったところだったし、暑さも本格的に人間と地球環境に喧嘩を売りに来ていた時だったから、あまり深くは考えずに承諾した。
そして当日、浮き輪も旅費も十分に準備をし結衣のお母さんの車で山を抜けること一時間弱。体感的にはものの数分のように感じ、出だしから飛ばす俺と結衣に結衣のお母さんは苦笑していた。
いつも突然何かしらの案を思いつき、タイミングを見計らって俺に伝え、俺も俺で断れるような用事も何も持ってはいないから仕方なく、保護者枠で結衣のしょうもない、けれど楽しい思いつきに付き合う日々を送っているが、今回ばかりは少しの違和感を覚えた。
結衣は海が苦手だ。付き合う前、まだ俺達がこんな関係になるとは微塵も思いつかぬであろう懐かしきあの日、結衣は確かに海が苦手だと言った。海に入ると肌が痒くなり、日に焼け赤くなるから、あまり好きではないと。
最初はそういうこともあって水着ではないのかと肩を落としていたが、よく考えれば半袖でも日には焼ける。単純に海に行きたかったから、何ていう理由で普通そこまでするだろうか。
そう考えれば考えるほど深みにはまっていく。これは、昔からある俺の悪い癖でもあった。
「裕ー太ー。どう、楽しい？」
「え、ああうん」
「さいですか。それは良かったよ。なんか、いつも私が一方的に連れ回してるみたいじゃん？ だから裕太とのちゃんとした思い出を作りたいなーって」
トントンと少し固い動きで肩を叩いたかと思えば、笑顔で話す結衣の口から出た言葉は意外なものだった。
「いやー、嫌われたらどうしようと思ってね。少なからず私もそういう感情を持っているんですよ？ 裕太さん」
ごめんね、と動く唇は少し震えていた。結衣は嘘を言っていないと一目で分かった。冗談混じりに言っているが、コイツも自分で自分を追い込んでいたんだ。
「海が綺麗ですね」
「え？」
「私は貴方に溺れていますって意味。先生から教わった」
「何それ。らしくないねぇ。あー痛い痛い」
「うるせっ！」
お互い小さく悪態をついてみるも、ほんのり赤く染まった頬で照れ臭そうに笑う結衣の顔は、海以上に綺麗だった。
海が綺麗ですね＝【貴方に溺れています】
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