狗巻棘の犬

犬４６匹 ページ47

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8:22

棘くんと新幹線に乗る


『あれ、今日は寝なくていいんですか？』

「しゃけ」


珍しく起きている棘くんは誰かと連絡をとっていた


誰だろう?パンダ先輩かなぁ?んー…、と

頭を捻っていると棘くんから視線を感じたので

どうしました?と見ると棘くんは少し顔が赤かった


『顔赤いですよ?』

「お、おかか!」

『熱かな?大丈夫ですか?無理してませんか？』


おでこに乗せようとした手を掴まれる


「おかか…」

『そうですか…?それならいいんですけど……』



大事な日だから無理して欲しくない



『折角の晴れの日なんだから体調悪くなったら

言ってくださいね？』


「しゃけ!」



なんて笑顔で返してくるので私も笑顔で返したけど

乾いたような笑顔だった


「すじこ…?高菜?」

『大丈夫です!大丈夫ですよ!』



笑いたいのに笑えない

全部枯れた笑顔しかできない


…今日ちゃんと見送れるかなぁ

って不安にまたため息を吐いてしまった



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12:43


もう今月は何度目の本家だろう、と思った



使用人さん達が忙しなく働いていたので

私も早く手伝いに行かなきゃ


『棘様はあちらで着付けてもらってください』

「しゃけ」

『1時間前に迎えに行きますので』


そう言って棘くんと別れた後

当主様、奥様に挨拶をし、

手伝いをし、

私もスーツに着替えたりして

なるべく棘くんのことを気にしないようにした


『あっ！』


気づけば報告会まで1時間もなくて

急いで棘くんの部屋に向かった



『ひゃっ！！』


途中部屋の間から手が伸びたと思ったら

引っ張られて凄くビックリした



手を引っ張った張本人を見ると

口がポカリと開いてしまった



『ぁ、かっこい…』


今までで一番かっこいい棘くんがそこにいた



『に、似合ってます！！ね…すごく、はい…

あの、すごく似合って、ます…はい……』



ボシュッと顔を真っ赤にしながら

しどろもどろに感想を言うと

棘くんは笑って、


「ありがとう」



って言ってくれて


『あ、ぅ…と、げくん…幸せになって、ね』



泣きながら彼の幸せを願った



練習してたセリフはどっかにすっ飛んじゃったし

こんなはずじゃなかったんだけどなぁ




えぐえぐと泣く私に棘くんは困ったように笑って

しばらく頭を撫でてくれた




その優しさに苦しいのか

彼が行ってしまうが苦しいのか

今日で最後なのが苦しいのか




涙も心もぐちゃぐちゃだった




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