Valkyrieの人形はプロデューサー (ページ47)

今日:11 hit、昨日:12 hit、合計:208,953 hit

第四十四話ページ47

いよいよ決勝戦が始まろうとする。が、それはひとりの少年の声により、状況が一変した。ステージの前、私の目の前に現れたのは、なんと北斗くんだった。『Trickstar』の衣装を身にまとい、走ってきたのだろうか、酸素を求めるように肩を上げ下げしている。
まず、北斗くんは私に向き合う。私も反射的に立ったのだが、北斗くんの表情はやるせなかった。そして、90°というキレイな直角をつくるようにして頭を下げた。
「転校生、俺は、お前を裏切った。『Trickstar』を裏切った。その上またこうやってぬけぬけと現れるようなものではないと自分でもわかっている。しかし、俺はまた闘いたい、お前たちと共に、前へ進みたい。おばあちゃんからの手紙で自分の答えが出せた気がする」
北斗くんがそう言って、より深く頭を下げた。戸惑っていると、彼は言葉を続けた。
「自分の生きたいようにやれと、そう言われた。もう、両親に従うだけの俺とは違う！転校生これは＿＿ムグッ！」
北斗くんの口を片手で塞いでもう片方の手でスマホに文字を打つ、またなにか言いたそうにしていたが、今は私からも言っておこう。転校生ではなく『プロデューサー』である私から。別に説教ではない。「顔も見たくない」という言葉でもない。よくある。無残な言葉を私は選んだ。
『おかえり』
たったそれだけ。この一言である。北斗くんは無表情のような形相から笑顔で、
「ただいま」
と言ってくれた。ステージ上でスバルくんたち『Trickstar』もおかえりと叫んでいる。もちろん、驚いて私たちの状況を見ていた近くに座っている、前回の『S1』で彼らの活躍ぶりを見ていてくれた観客も、おかえりと言っていた。私は北斗くんをステージにのぼらせる。ステージ上から『Trickstar』が北斗くんに手を伸ばしてのぼるのを手伝ってくれた。私は再び席につき、サイリウムを用意した。最終決戦が、今ここで始まろうとする……。

第四十五話→←第四十三話