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◇◇◇
「おつかれさまでした〜!」
今日もスケートの練習が終わって、俺たちはやっと、普通の男子に戻る。
練習中は、それはもう頭のてっぺんから足の先までスケートのことだけ。
まぁ、俺の場合、リンクを降りてもそれはあんまり変わらないんだけど……一緒のクラブに入ってる奏多くんはようやく解放された!って顔をしてる。
「やっと終わった。もう疲れた〜」
「奏多くん、ジジくさい。俺たちまだ16よ?」
「……ゆづって意外と子供っぽいよね」
奏多くんが、呆れたように言う。
……子供ねぇ。
じゃあどうしたら、大人っぽくなれるんだろ。
「俺はマジ疲れた……」
同じクラブの同い年の一颯(いぶき)くんは目が死んでる。相当疲れてるな、これは。
「一颯くん、早く帰って寝なよ?」
「おう……結弦もな……」
ふらふらしてるし。
奏多くんは、なんだかんだ文句を言いながら、一颯くんを支えている。
「寝るなー寝たら死ぬぞー」
「奏多……、最期に……ひとつ……」
「なんだよ」
奏多くんはめんどくさそうにしている。
「奏多、愛してるよ……」
一颯くんの目が、きらっとひかった。
「キモ」
奏多くんが支えていた一颯くんを、ぱっと離した。一颯くんが大袈裟に倒れる。
なんだこのコント。俺は呆れながらもついつい微笑ましくて笑ってしまう。
……愛してる、ねえ……。
そんな言葉……俺生まれてから一回も、思ったことないかも。
ふざけて口にしたことはあっても……そんなこと、真剣に考えるには、まだ若すぎるし。
Aって子の顔を思い浮かべた。
……一週間、たったな。
一週間は待とうと決めていた。ようやく一週間がたった。
待ちわびたよ。
「一颯、いい加減立ち上がれば?」
一颯くんはまだ倒れていた。
むくりと立ち上がってから、一颯くんは大きくため息をついた。
「……すっげぇ、むなしい」
「何の話?」
奏多くんが一颯くんの手を引っ張ってリンクサイドからロッカールームの方に向かって連れていく。
俺はその後ろに続いた。
「癒されたい……。俺は女の子に癒されたい……」
「彼女作ればいいじゃん、お前そんななのに見た目はそこそこだから寄ってくるでしょ」
「黙れ奏多!!俺はマジの恋愛がしたいの!」
その気持ち、わかるよ。
……だから俺は、これからAさんに、メールを送る。
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作者名:mirin | 作成日時:2020年4月5日 17時