君と描く物語１１

＃５３８ ページ38

天元side

お祭りか…誰と行くかなんて、聞かなくても予想がつく…


元々見回りは毎年ローテーションで、たまたま連続して役が回ってきたけど
今年は頼まれたって行きたくねぇな

時透(あいつ)と楽しそうに回るAの姿なんて視界に入ってみろ…

天元｢…考えただけて居た堪れねぇ…｣ﾎﾞｿｯ

誰もいなくなった美術室で、椅子の背もたれに思いっきり寄りかかって天井を見上げる

一番近くに居たはずなのに…遠のいてしまうのは一瞬なんだな……


Aの笑顔を奪ったのも沢山泣かせたのも俺で、Aの涙を拭い笑顔を取り戻したのは時透だ…

今更俺の出る幕なんか無い


いいじゃねぇか別に…身を引いた事後悔なんかしてない
惚れた女の為に俺にできる事をしただけだろうが

してやれる事があっただけ幸せな事じゃねぇか…


だけど…そう思わなきゃいけないのに…


夢に向かって楽しそうに作業に励む姿
付き合っていた頃なら手を伸ばして抱きしめていた同じ距離にいるのに、どれだけ願っても触れられない切なさ

真面目な横顔
伏し目になった時に影を作る程の長いまつ毛も…風に揺れる柔らかな髪も、もうその全てが…

今更になって、別の誰かのものになってしまったと言う現実が…辛くて仕方ないんだ…っ


こんなに誰かを心底愛したのは生まれて初めてで、その分辛いはずなのに…不思議だな……

天元｢好きにならなきゃよかったなんて、微塵も思わねぇんだよな…｣

ぼんやりと眺める天井がじわっと滲む


A…お前が幸せになってくれるのが俺の一番の願いだ
だから俺は、これからもこの想いを告げる事なくお前を見送る


だけど……ごめん、せめてもの抵抗…

他の奴と笑い合う姿に…おめでとうとは、言ってやれそうにねぇや…

だからせめて、今回の祭りみたいに…どうか俺の目の届かない場所で笑っててくれ




天元｢……って、思ってたのによぉ…｣

数日前のしんみりとしていた俺よ…
残念ながら、何故か今年も賑やかな人混みの中にきてしまったぞ

杏寿郎｢まだ不貞腐れてるのか宇髄！仕方ないだろう、見回り役の他の教員に欠員が出てしまったんだから｣

天元｢わーってるよ！さくっと見回ってさくっと退散すんぞ！｣

杏寿郎｢何をそんなにむくれているんだ？｣

天元｢うっせぇ！何も聞かないでくれ！｣

せっかくこの俺が珍しくおセンチに纏めようとしてたのに…
これでA達と遭遇でもしたら洒落になんねぇぞ！


とりあえず、勘を頼りに避けて回るしかねぇ…

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