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甘い香りが漂う。
甘いけれど、別に甘ったるくはない。
飽きのこないような、なんて表現したらいいのか分からないけれど。
俺はその香りを知っていた。
藍色の少女を抱き留めた時。
細くて引き締まった、でもきちんと女の子の柔らかさを持ったその体から漂う香り。
馬鹿だな。
本当に馬鹿だ。
その藍色は、いつでも凛とした強さを感じさせて。
そしていつでも、五条先生を見上げている。
「伏黒恵」
夢の中で、藍色の少女が俺の名を呼ぶ。
彼女に呼ばれるその名が、とても心地良い。
手を伸ばせば、その藍色が戸惑いながらも、俺を見ていた。
吸い込まれそうな深海の奥底に、俺が映り込む。
触れた髪の毛も、猫のように柔らかくて。
するり、とその手を滑らせて彼女の頬に触れると、彼女もその上に手を重ねた。
「……あったかいや」
「っ、……」
藍色の瞳が細められた。
なんて、なんて美しく微笑むのだろう。
こんなにも、幸せそうに笑う人が。
なぜ。
「……!?」
千尋の身体が急に冷たくなって、重ねていた手がダラリ、と力なく下ろされた。
内に棲まう呪いが溢れ出して、彼女を飲み込んだ。
「千尋!」
手を伸ばしても、届かない。
どんどん遠く離れていく千尋に、踏み出したはずの足が絡れて飲まれた。
「千尋!そっちに行くな!」
届かない声を必死に叫ぶ。
千尋が振り返って、小さな口が動いた。
「それが、私の使命だから」
「_______千尋っ!!!」
飛び起きたのは、杉沢病院の病室だった。
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(今のは……)
夢なのだ。間違いない。
けれどどこか現実味を帯びたそれは、不自然に熱を奪われた右の手のひらが語っていた。
が。
「……なっ!」
俺の左手の下、柔らかい感覚。
シーツではない人の肌。
強く握られた手の中に、自分のものよりも一回り小さいそれがあった。
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早瀬モモコ(プロフ) - リリリンゴさん» リリリンゴさんコメントありがとうございます!とても励みになります!更新頑張りますのでこれからもよろしくお願いします!! (2021年10月16日 21時) (レス) id: 8442258d5b (このIDを非表示/違反報告)
プスメラウィッチ - 初めまして、この小説は五条悟オチですか?できれば五条悟オチでお願い出来ますか?続き頑張って下さい。応援してます。 (2021年10月13日 23時) (レス) id: 6c0ddf792c (このIDを非表示/違反報告)
リリリンゴ - シリーズ最初から読みました!面白いです!更新頑張ってください!応援してます! (2021年10月13日 2時) (レス) @page6 id: 5191a43a7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:早瀬モモコ | 作成日時:2021年10月12日 1時