キミ色に染めて (ページ28)

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流れゆく時はページ28

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『今日の朝、北ちゃんに会いに行ったでしょ？』

壱｢うん。｣

『私つい怪我してるとこに触れて謝ろうとしたら、私の手を取って、もう謝るの無しねって言ってくれたの。』

壱｢ん、そっか。｣

『好きな人に手握られるのって、こんなに嬉しくて安心するんだなって思って、離しちゃうの勿体ないなーって思ったら、気持ちがそのまま口から出ちゃって。』

自分の左手を見つめながら、静かにそう話すAは、こっちが泣きそうになるくらい切なくて、儚くて、不謹慎かもしれへんけど、綺麗やって思った。

『そしたら、…そしたらね、北ちゃん言ったの。いつでも繋いでいいよって。私、ちょっと期待しちゃったんだよね。』

なんであんなこと言ったんだろう。そう言って、Aはまた涙を流した。

きっと一瞬やったと思う。そのちょっとした時間に手を握っただけで、安心させられる北人が心底羨ましい。

俺じゃ代わりになれへん？俺の手じゃAを、安心させることは出来ひんのかな。そんな想いが募って、俺は上書きするかのようにAの左手を握った。

壱｢もうさ、…俺にしとったらええやん。｣

『え、？』

壱｢俺なら絶対、お前のこと泣かせたりせえへんのに。｣

『ねえ、壱馬？』

壱｢一生大切にするし、絶対、幸せにできる。せやから、｣

『っ、ちょっと待って、何言ってるの、？』

俺の話を遮ったAの顔を見た途端、続きを言うことが出来なくなった。俺が気持ちを伝えることは、Aをこんな顔にさせてしまうのか。

そっか。そりゃ焦るよな。困るよな。けど俺、そんな顔させたいわけやなかったんよ。

壱｢…だめや、続き思い出せへんわ。｣

『どういう、こと？』

壱｢いやいや、お決まりのやつやん。恋が上手くいかない主人公に突如イケメン幼馴染からのラブアタック！｣

『何言ってんの、』

壱｢Aがよく読んでる少女マンガにあったやん。どうやった？俺結構イケてたやろ。｣

『…もう、何それ！びっくりしたじゃん！』

壱｢あ、お前まさか、本気にしたん？｣

『するわけないでしょ！』

壱｢っ、…せえへん、よな。｣

『大体ねえ、自分でイケメン幼馴染とか言わないからね、普通！もー…馬鹿！ばかずま！』

壱｢ばかずまってなんやねん、｣

俺にはやっぱ出来ひんわ。気持ち伝えることなんか。

この先こうしてAが笑ってくれることがなくなるんやったら、一生隠し続けた方がよっぽどもましやから。

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