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それからは、
洞窟の中で息をひそめていた。

時間の感覚もなくなっていく。

夜になって真っ暗になると、
やっと外に出られて、
近くの村の畑で食料を取って戻った。


おばあやおじいの中には、
眠り続ける方も出てきて、
その遺体を、
外に放り投げて、
出来た場所にまた、
新しく逃げてきた方が、
入られた。


ご遺体を弔うことが出来ずに、
排泄物の処理もままならず、
洞窟の中は、
鼻が曲がるような異臭が漂っている。


誰もが限界やったのに、

日本軍の兵隊さんが、きっと助けてくれる。

それだけを頼みの綱に、
ここでの暮らしに耐えておった。


「だからよ。
男の子なんか生んだらだめさあ。
息子はどこかも知れない外国で死んで、
まだ高等学校の生徒だのに、
うちの孫は学徒にとられてしまったさあ・・・」


おばあのすすり泣く声が聞こえて、


「黙れ、おばあ!
米兵に聞こえる」


怒鳴り声がして、
誰かがまたガラス瓶を投げつけた。


幸ちゃんの元気がないんが気にかかる。


お母さんに会いたいと泣くこともなくなって、
虚ろな目をしてるねん。

幸ちゃんにおにぎりを食べさせて、
私は章大さんに頂いた金平糖だけを舐めた。


色とりどりの金平糖は、
洞窟の中で、虹のように輝いて見えて。


懐かしい大阪の町がまぶたの裏に映った。


沖縄に来て、この3年、
帰りたいと、こんなに強く思ったことはない。



日本の兵隊さんはいつ来はるんやろうか。

それを待ち望んでおったのに・・・



やっとやって来た日本軍の兵隊さんは、
入口で出迎えて、
少し話した後すぐ、

山城先生を、
いきなり銃で打ちつけた。


山城先生が倒れて、
国民服のお腹が鮮血で染まってく。


その姿を目の当たりにして、
洞窟の中に悲鳴が起こった。


「どけ」


兵隊さんが、震えているみなさんを押しのけるようにして、洞窟の中程まで進んで来た。


「米軍がすぐそこまで来ている。
もう逃げ場はない。
虐殺される前に、
自決するのが最善の策だ」


そのようなことを、おっしゃって、
自決用の手榴弾を一人一人に手渡された。


すすり泣く声がこだまする。


洞窟の中は、
絶望に包まれた。


最後の食事をして、
離れたご家族にお手紙を書かれて、

みなさん、この兵隊さんの言う通り、
死ぬとおっしゃる。


私はそんなの違うと思った。


米兵に殺されるなら、
その瞬間まで生き延びたい。


戦場から戻られた章大さんに、
その瞬間に会えるかもしれへん。

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みき(プロフ) - 今日は、お医者さんの章大さんの君がため。を読み返させてもらいました!何度読んでも涙無しには読めません…沖縄には行ったことがなく授業やテレビで見た知識しかないですが、このお話で戦争の恐ろしさをより知ることができました。素敵な作品をありがとうございます。 (2020年11月29日 15時) (レス) id: eb998853f9 (このIDを非表示/違反報告)
mary(プロフ) - 初めまして。安田くんのお話読まさせていただいて凄く心に残ったのでコメント残させてもらいます。私はただ安田くんが好きで見に来ただけの者ですが、胸が痛く昔の人はこんなすごい時代を生き抜いたんだなと勉強になります。素敵な作品ありがとうございます。 (2018年3月17日 23時) (レス) id: 79f2449df5 (このIDを非表示/違反報告)
小梅(プロフ) - 初めまして、お話全て拝読させて頂きました。どれも愛おしさと強さが詰まって素敵でしたが私は特に章大さんとのお話に感銘を受けました。語彙力と文字数があまりないので単刀直入に言わせて頂きます。こんな素晴らしい作品を書いて下さりありがとうございました。 (2018年2月14日 0時) (レス) id: 42d3eddb06 (このIDを非表示/違反報告)
サンニン(プロフ) - 返信ありがとうございます!学生時代に遊びに行った北谷や、地元で小さい頃から初詣に行ってた普天間宮が出てきたので、コメントせずにはいられなかったです。笑 street bluesも楽しく拝見しています。これからも作品を楽しみにしています! (2018年1月30日 22時) (レス) id: 4dd64463ef (このIDを非表示/違反報告)
奏空(プロフ) - はじめまして。突然長文失礼します。初めから全て読ませていただきました。それぞれ違う時代に、主人公二人がお互いを強く想い合いただ1人の人を愛するという姿に心惹かれ、 感動し涙するばかりでした。大変だとは思いますが、次のお話楽しみにしています。 (2018年1月30日 15時) (レス) id: 176132ab5c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:fool x他1人 | 作成日時:2018年1月17日 8時

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