幸福ノ音色 【宇髄天元】

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炭治郎と話している間も、Aの脳内には着実に映像が流れ続ける。
前に夢で見た、現実離れた映像が。
顔が見えないのに何故だか懐かしさを感じるあの人が目の前にいる。
前よりも明らかに声もはっきり聞こえてくるし、聞き覚えがある。

というよりこれは、間違いなく______


『宇髄先生の声……』

「え……？」


それだけははっきりと分かる。
しかし、これはいつなのかと問われればそれはさっぱり分からない。
声以外何も知らない。


『…う……っ』

「A？大丈夫か！？」


分かることといえば、この映像が流れた時Aにとても激しい頭痛が起きることだ。
まるでこれを知ることを体が拒否しているかのように。

でも、知らなければいけない。
そう伝えるように脳が無理やり映像を流れ出してくる。

体の中で勝手に行われる葛藤が気持ちが悪くて吐き気がする。


「…A、頼む。明日、宇髄先生に必ず会いに行ってほしい。お願いだ」

『え、なん、で……』

「Aの知りたいことが分かるから、」

『でも、あんなことがあって…会いたく、ない…』


物凄いスピードで思い出しているはずだ。
前世の記憶を。
その記憶がAの頭の中を占領していて酷く頭が痛むのだろう。

そう思って炭治郎は、頭痛で苦しむAを抱き留めてひたすらに伝える。
しかし、Aは生理的な涙を流して否定を続けた。

この調子のまま宇髄のところに行けばほぼ確実に全てを思い出せるはずなのに。
Aの反応を見る限りもうそのラインまできているのだ。


「頭、痛むんだろう？それもきっと消える。それに、いつまでもAから悲しい匂いがするのは俺も辛いんだ」

『たん、じろ…』

「…眠っていいぞ。送るから」


炭治郎がそう言うと、Aは痛みに耐えきれなくなったのかポロッと1つ涙を流して眠りに入った。
その涙を指で拭い、Aを背負って家へと向かう。

宇髄さん。
どうかAを、幸せにしてください。

そう心の中で願いを告げて。

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