第七幕 ページ8
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空気を読まずにウェイトレスがカチャカチャと音を立て、運んできた。
「ご注文は以上でよろしいですか」……はい、と答えたのは潤だ。
私は、何も声が出なかった。
遠ざかっていくウェイトレスの靴音も店内の喧騒も……どこか一枚、膜の向こう側の世界のような。
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潤「さ、食べよっか」
A「………」
潤「おーい？……早く食べないと俺が全部食べちゃうよ」
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潤は林檎の焼き菓子に手を伸ばす。
焼きたてのそれは、とても美味しそうだ。
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A「………無理よ」
潤「え？」
A「……全部なんて食べられるわけがないでしょ、多すぎて」
潤「…………ああ、そうだね」
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左手を引っ込めて、机の下に隠そうとする。
その、手首を。ガッと
潤の右手が掴んだ。
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見つめ合ったのは、数秒のこと。
どうして、潤の手はこんなに冷たいんだろう。
ずっと店の中にいたでしょう？なのに氷のように冷え切っているのは
―――いいえ、私も同じこと。
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A「潤……無理……」
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もう温もったと思っていたのに、私の指先はまた震えてる。
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潤「一人じゃ、無理だ。
だけど二人でなら…―――」
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薬指から、離れていく
大きな大きな煌めき、ダイヤモンドが外れていく。
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潤「半分こ、だ」
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潤の右手の中に抜き取られていった指輪は
そのまま、潤が自分のジャケットのポケットに仕舞い込んだ。
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A「返して…」
潤「無理」
A「潤」
潤「……早く食べよう、せっかくの焼きたてが、冷めちゃうから」
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潤の右手が去った後も、机の上、動かせない左手
急に軽くなったことに不安を感じて
潤。と小声で呼ぶ。
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潤「はい……あーんして？」
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上手に一口サイズに切り分けた焼き菓子を、フォークに刺して
私に向かって突き出して、笑う。あ、と口を開けて迎え入れた。
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なるちゃん(プロフ) - 読了後、すばらしい！と叫びました！三人三様の愛が苦しく切ない。とてもよかった。ありがとうございました！ (2018年9月4日 12時) (
レス) id: a1fe1fb9b8 (このIDを非表示/違反報告)
咲．(プロフ) - 覚えました。自分の語彙力の乏しさを悔しく思いますが…全てが不幸だ、と言い切れないこのお話がとても素敵だな、と思ったし素敵なお話に出会えて私は幸せだな、と思いました。本当にありがとうございました。 (2016年2月23日 0時) (レス) id: 7f46cc82f6 (このIDを非表示/違反報告)
咲．(プロフ) - コメント失礼します。"温かく苦しい"まさにその通りだと、最後まで読み思いました。彼が病気でなければ。臓器提供をしたのが彼でなければ。おばあさんとの出会いがなければ。ほんの僅かな点と点の違いで、人生がこうも動くのか、と目の当たりにしたような錯覚を (2016年2月23日 0時) (レス) id: 7f46cc82f6 (このIDを非表示/違反報告)
櫻子 - 足掻けば足掻くほどにドキドキさせられる作品！結末は既に決まっている中で、ドキドキしながら読みました！ (2016年2月20日 2時) (レス) id: 05f662a4f2 (このIDを非表示/違反報告)
櫻子 - 結末は既に決まっている中で、ドキドキしながら読みました！ (2016年2月20日 2時) (レス) id: 05f662a4f2 (このIDを非表示/違反報告)
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