第一幕 ページ2
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カチャン……と。食器を重ねる音が、やけに耳に痛く響く朝だった。
朝食は私が彼が起きるより早くに起きて作ったものだけど
じゃあ心を込めて作ったのかと言うと、それは別問題で
だから彼が美味しい、とも言わず。無言でそれらを食べたとして、私には彼を責める権利などない。
……絶品だといわれるレシピ通りに作っている。おそらく美味しいのだろうが
私自身、私の作ったそれを彼と向かい合わせの席で食べていても、何の味も感じないのだ。
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「―――今日」
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シュル……と器用にネクタイを結びながら
彼は口を開いた。
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「会議で遅くなる。晩御飯いらない」
A「そうですか……」
「………」
A「………」
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空気が重い。早く出かけてくれないかな、とか
こんなの近々、夫になる男性に対して抱く感情としてはあってはならないものだろうに。
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「A」
A「は、はい」
「………明日。結婚式の打ち合わせは、行けるように調整するから」
A「無理なさらないでくださいね。忙しいようでしたら、私だけでも大丈夫ですし…」
「………ああ」
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優しさを、示してくれたわけでもないくせに
私の父の機嫌を損ねるのが怖いのだ。だから、私に対してフォローを入れようとする
見え透いた打算など要らなかった。
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A「行ってらっしゃい、翔さん」
翔「行ってきます」
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素敵な
友人の幸せを深く考えているわけじゃない、関心があるのは自分のことだけだから
仕事ができて、顔もいい。別に言うほど大きな問題があるわけでもない。
そんな私の婚約者のことを彼女たちは高評価する。
かと言って、分かってくれとも思わない。
私が結婚に対して暗い思いを抱いているなんて知ったところで
女というのは。自分が一番幸せでいたい生き物だ。
同情するフリしながら、心の中で弧描くルージュなど
醜い以外の何でもないだろう。
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なるちゃん(プロフ) - 読了後、すばらしい！と叫びました！三人三様の愛が苦しく切ない。とてもよかった。ありがとうございました！ (2018年9月4日 12時) (
レス) id: a1fe1fb9b8 (このIDを非表示/違反報告)
咲．(プロフ) - 覚えました。自分の語彙力の乏しさを悔しく思いますが…全てが不幸だ、と言い切れないこのお話がとても素敵だな、と思ったし素敵なお話に出会えて私は幸せだな、と思いました。本当にありがとうございました。 (2016年2月23日 0時) (レス) id: 7f46cc82f6 (このIDを非表示/違反報告)
咲．(プロフ) - コメント失礼します。"温かく苦しい"まさにその通りだと、最後まで読み思いました。彼が病気でなければ。臓器提供をしたのが彼でなければ。おばあさんとの出会いがなければ。ほんの僅かな点と点の違いで、人生がこうも動くのか、と目の当たりにしたような錯覚を (2016年2月23日 0時) (レス) id: 7f46cc82f6 (このIDを非表示/違反報告)
櫻子 - 足掻けば足掻くほどにドキドキさせられる作品！結末は既に決まっている中で、ドキドキしながら読みました！ (2016年2月20日 2時) (レス) id: 05f662a4f2 (このIDを非表示/違反報告)
櫻子 - 結末は既に決まっている中で、ドキドキしながら読みました！ (2016年2月20日 2時) (レス) id: 05f662a4f2 (このIDを非表示/違反報告)
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