【skt】フィアンセ (ページ5)

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STORY.５もう一度出会えたページ5

カシャカシャ

「これで終わり、かな」

殿下との衝撃のエンカウントから早数日。
私は、王宮での普通の日常に慣れつつある。

今は洗い物が終わったところだ。

割り振られた仕事が終わったため、メイド長に報告しに行く。
そこで、もう一つ仕事を与えられることもあれば、少し休憩をもらえることもある。
今回は後者だった。
メイド長にお礼を言って休憩室へと進む。

……殿下、今何してるかな？

思い出されるのは、あのときの殿下の姿だ。
一介のメイドである私なんかじゃお近づきになれないような相手。
何度忘れようとしても、あの燃えるような赤髪が、とろけるような朱色の瞳が、甘い毒のように頭にこびりついて離れない。

「…まぁでも、もう会うこともないだろうし、そのうち忘れるよね」

頭を振って気持ちを入れ替えようとしたそのとき、後ろから自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。

…メイド長かな？

「はい、なんでしょ……！？」

振り向いた先にいたのは、メイド長でも他のメイドでもなく、先程考えていた殿下そのものだった。

「殿下！？えっと、ご機嫌麗しゅうございます。わたくしに何か御用でしょうか…？」

私がそう返すと、殿下は少し寂しそうな顔をする。

「いや、そんな改まらんでええよ。……この前はもっと自然に話してくれたやん」

少し拗ねたように腰をかがめ、上目遣いをする。

「…それとも、もう俺と話したことなんて忘れちゃった？」

反応のない私に傷ついたような表情で、距離をとろうとした彼に焦って、つい服の袖をぎゅっと掴む。

「…あ、申し訳ありませんっ！とんだご無礼を……」

普通だったらあり得ないほどの無礼に謝罪をするが、殿下は嬉しそうな、安心したような顔をした。

「だからええよって。……覚えててくれてほんまに嬉しい」

「そ、そんな！忘れるなんて有り得ないです。だって殿下は……」

「殿下は？」

殿下が悪戯っ子のように口角を上げる。それと同時に、何かに期待しているようにも見えた。

「うう………殿下は、それはそれは麗しくあらせられますし、わたくしのようなメイドにも優しくして下さったんです。忘れろと言う方が無理だと思いませんか？」

照れながらもそう言うが、肝心の殿下から反応がない。

「もう、殿下？………わわっ」

殿下の顔を見ようとすると、大きい手で目を塞がれた。

「ちょっと待って、今はダメ」

殿下の表情はわからないが、目をおさえる手が酷く熱く感じた。