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「──夜に眠るのは、夜の魔物に殺されないように息をひそめるためなのかもね」


ふと頭によぎった言葉を音にして、我ながら馬鹿げたことを言ったと思った。
深夜だからとて、人に聞かれるのは恥ずかしいかもしれない。

しかし、彼は特にわたしの言葉を笑うこともなく、起き上がってわたしの隣に座った。


「夜から隠れる、かあ」


小さく頷いて、窓からの光に照らされる彼の横顔を見た。


「きみと一緒ならうまく隠れられると思ったんだけど、」
「でも二人で寝てても、寝てしまえば一人だべ」
「……そっか」


どんなに手を絡めたって抱きしめたってくっついて寝たって、夢の世界に相手を連れていくことはできない。彼の言葉は至極当然だった。
しかし、そのことを意識してしまえば、より一層眠るのが怖くなってしまう。

毎日毎日繰り返されているはずの睡眠に、どうしようもない恐怖を覚えている自分が不思議だった。
まるで夜に呪われているみたいだった。


「……まあ、気分転換に散歩でもする?」


そう言って立ち上がった彼が、クローゼットを開けて上着を羽織る。
わたしはてっきり彼がもう眠ってしまうと思っていたものだから、この提案には驚いてしまった。


「寝ないの?」
「眠れないんだろ?」
「でも、」
「行かない?」


彼の急かすような視線に、慌てて首を横に振って立ち上がった。
半袖のパジャマに薄いマウンテンパーカーをさっと羽織って、乱れた髪を手櫛で整える。

玄関でサンダルをつっかけてチェーンロックに手を掛けた。


「A、鍵持った?」
「持ったよ、一応お財布もね」


よし、と言いながらスニーカーに足をねじこんだ彼と微笑みあって、玄関の扉を開ける。
二人なら、外に出ても大丈夫な気がした。



夜の空気はほんの少しひんやりしている。肌を撫でる風の冷たさに思わず「寒っ」と声を出して腕をさすった。
そうでもないでしょ、という少し冷やかしたような彼の声にそっと腕を覆った手を離すと、案外夜の風も心地いい。

これが存外怖くないということには、彼がいないと気づけなかっただろう。
一人だったらただ夜の闇にじっと耐えなくちゃならなかった。


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レイラ(プロフ) - 今更すぎて感想を書くのが少し躊躇われたのですが、どうしても言わせて頂きたかったので失礼します。端的に言うと、とても私好みの作品でした。情景がありありとイメージでき、繊細でどこか冷たい夜と彼のあたたかさの対比が素晴らしかったです。出会えてよかった。 (2021年1月1日 11時) (レス) id: 6358eb65d4 (このIDを非表示/違反報告)
もの(プロフ) - 大変感想が遅くなり申し訳ありません、コメント失礼します。このたびは企画に参加してくださりありがとうございました。雛さんの書く夜殺し、夜の静かな恐ろしさのようなものが感じられました。情景が容易に浮かぶようでした。大変素晴らしい小説をありがとう…… (2020年6月4日 21時) (レス) id: edeaa77e45 (このIDを非表示/違反報告)
- 夜中がちょっと怖い感じすごく共感出来ます、、、!世界そのものが素敵でした!最高です! (2020年6月3日 5時) (レス) id: d98cb5a436 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - あーさんさん» 夜中眠れないと不安になりますよね〜!そのような不安を描けたらと思っていたので、共感していただけて嬉しいです。コメントありがとうございました! (2020年5月31日 23時) (レス) id: b56c38f9b7 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - nonさん» 不安な感じと穏やかな感じとが共存するような雰囲気を目指しました(笑)ドキッとしていただけて嬉しいです!ありがとうございます! (2020年5月31日 23時) (レス) id: b56c38f9b7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2020年5月30日 21時

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