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【銀杏色/fsm】しんそうの信号 ページ21

*ヤンデレ

..あぁ、今日こそは。
隠れるように拳を握り、私は堕ちていく紅緋に何度目かの決意を誓った。


ピロン、と軽快な通知音が私に絶望を知らせる。
放置していたらもっと酷い事になるのは分かりきっていたので不承不承スマホに電源を入れると、そこには矢張り彼氏からのメッセージが来ていた。

ガッくん
今どこ?

はぁ、と口から溜息が漏れる。世間ではよく幸せが逃げるから溜息を吐いてはいけないと言うけれど、生憎私の幸せはとっくに逃げているのだ。溜息くらい自由に吐かせて欲しい。
返事を打つ為に腕を上げてスマホを持てば、袖口の緩い茜色のカーディガンが肘まで落ちた。夜道だから分かりにくいものの、腕には幾つもの痛々しい噛み跡や赤黒いキスマークが窺える。私はそれらを一瞥し、また溜息を吐いてカーディガンの袖を手首まで引き上げた。

○○駅降りた所だよ。今から帰るつもり

送信音が鳴ったすぐ後、私がメッセージアプリを閉じるよりも前に彼の既読が付いた。相変わらず早いな、と感嘆しつつ届いたメッセージを見る。まぁどうせ家で待ってるとの文言なのだろうけど。...ほら、やっぱり。
私は無意識に打ちかけた「別れたい」の文字を即座に削除して代わりの承認を送り、またひとつ溜息を吐く。
恐怖か緊張か、帰路を辿る私の足は俄に震えていた。


「..おかえり、A」
『ただいまガッくん、ごめんね、すっかり暗くなっちゃった』
同棲はしていないはずなのにもう慣れてしまった彼のお出迎え。いつも通り広げられた彼の腕の中に入ると、優しく何度か頭を撫でられた。視界いっぱいの向日葵色と鼻腔を支配する彼の匂いの中、最早義務と化したそれ(愛情表現)に少しだけ虚しくなる。
「風呂と飯、どっちがいい?」
まるで新婚の様な問いをしてくるガッくんにお風呂がいいと答えると、彼は分かったぜ、と優しく笑って私の額にキスを落とした。
「ゆっくり温まって来るんだぞ〜?オレはリビングで待ってるからな」
そう言い残して彼は上機嫌に廊下を歩いていく。
その大きな背中の主に宛てた別れようなんて言葉、こんな状況では(とて)も切り出せそうにない。
再び出そうになった溜息を何とか飲み込んで、気持ち悪い空気を掻き回す様にわざと足音を立てて風呂場に向かった。

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作者名:みそ漬けキュウリで殴る x他6人 | 作成日時:2021年11月16日 17時

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