虹色のパレット (ページ19)

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パレットや筆についた絵の具はあらかた取れたようだ
蛇口を捻って水を止めた

「相変わらず、Aさんは綺麗な絵を描きますね」

特に色の使い方が、と加える剣持君

そんなにまじまじと見つめられると照れてしまう

、、、まぁ、見られているのは私の絵なのだが

「瞑色、って言うらしいよ」

「めいしょく、、？」

怪訝そうに眉をよせる彼
勉強でも運動でも敵わないが、色は私の専門分野だ
初めて彼に勝てた気がして得意げになった

「今みたいな空の色のこと、そういう風に呼ぶんだって」

話しながらもパレットや筆の水を丁寧に拭き取った私は、剣持君に背を向けてそれらを元の置き場に返しにいく

「どうしてこう、人間というものはちょっとした色の差異に面倒な名前をつけたがるんでしょうね」

やれやれ、とばかりに肩をすくめる剣持君、なんだか屁理屈を言う子供のようでくすくすと笑ってしまった

なんですか、とじとりとした目線でこちらを睨みつけてくる

なんでもない、そう言ってまだ笑ってしまいそうになる口元を抑えた

「色ってね、全く同じ色でも違う名前を持ってることがあるんだ」

なんて、雑に話題を逸らしてみる
リアリストな彼なら、物好きなことで、なんて言って、そこでこの会話は終わり
だと思っていたのだが

「ほう」

それで？と続きを催促するような返しに面食らってしまう、この話の続きなんて考えていなかった

「え、っと、、色って、場所とか、誰と見てるかとか、どんな気持ちかとかで人によって違って見えると思うの、だからたくさんの名前が付けられてるって勝手な推測だけど」

こくん、と頷いたのを見て話を続ける

「昔の人も好き勝手に自分で感じた色に名前をを付けてたなら、私にも私だけの色が見えてるんじゃないかなぁ、なんて」

思ったり、思わなかったり、とモゴモゴと付け足す
完全にやった、理屈もへったくれもないような小っ恥ずかしい事を、聞かれてもいないところまで彼の前でべらべらと語ってしまった

でも、こんな事を突き詰めて聞いてくる剣持君がおかしいのだ、若干のムカつきを覚える

「夢想家なんですね、意外と」

こいつ痛い事言ってるぜー！みたいな煽り顔で言ってくるものだから、ついつっけんどんにバカにしてる？と聞き返す

「いえいえ、ただクラスでは大人しいのに大した思想をお持ちだなぁ、と」

絶対バカにしてるだろ、そんな思いを込めて睨みつけると、彼は軽く笑った