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「強い!つよいつよいつよい!」



麦わら帽子を被ったさっきの人が竿を強く引く。


30代前半くらいの美人風貌で、その人は釣りをするには相応しくないような、だけど海にに合うような格好で忙しなく動いている。



 




「あっ」




麦わら帽子が海風で落ちると思ったら、ゴムで止めてあり顎に引っ掛けていた。






俺の声に気づいたその人が俺の方を向く。




 




キャップを深く被っててマスクしてるから変質者やと思われたかも。




 




それか、こんなに明らかに“芸能人です”みたいな格好やしバレたかな。





 



「えっ?」

「…?」

「あーあ、逃げられちゃった。」




気を取られた隙に魚に逃げられたのか、残念そうに聞こえない言い方で明るく言うその人は




竿を置いて俺の方に近づいて来た。


 




「…キミ、ここの島の人じゃないね?」

「あ、あぁ、まあ。」

「あー、あの船で来たの?」



 




船の方を見ると、コンテナを上げ下げしている。





本土から父島へ届いた荷物と父島から本土へ送る荷物を交換しているところやった。



 



「長い間ご苦労様。…マスク暑くない?




帽子は日焼け対策にしても。とった方がいいよ。熱中症になっちゃう。」

 





 









俺が渋ってると、ふと左耳にその人の右手がかかった。




 





 





一瞬触れた頬が体温上昇で一気に熱くなる。



 






「え…。」


 



「海の匂い。よくない?」




 





その人につられて息を吸うと、確かに海の匂いが鼻を掠めて気持ちよかった。





マスクをしてると分からなかったけど、独特の匂いが漂って、何回も思いっきり空気を吸っていた。




 




「…泳ぎたくなるな」

「泳ぎたくなる?」

「うん。」

「ばかねぇ。」



 





そう言って笑う彼女は、釣り道具をしまった。




「水って事故と隣り合わせなんだよ。こんなところ泳いだら、キケン。」



 





彼女はそう笑って俺の背中を押した。

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作者名:きい | 作成日時:2021年8月29日 23時

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