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「やばい!竿が動いた!」
「………」
「のんすけ!網持って!ちょっとぼーっとしないでよ!」
「あっはい、え、すんません」
「早く!」
俺は慌てて網を海に落として魚を探す。
釣りなんてそんなにせえへん。
初心者なりに見つけて網の中へ。なのに。
「え?」
「あー、逃げられた。」
「すいません」
「いいのいいの。別に釣れたらラッキーくらいの気持ちだから。」
「いいのって言う割には、結構な勢いで俺のこと睨んでますよね?」
「だってのんすけが網持ち上げる力ないから。それで逃げたんだよねー」
「え、俺のせい?」
「俺のせいって思ったからすいませんって謝ったんじゃなくて?」
サヤカさんは意地悪だ。
だけど、俺のことをAさん同様過去の話は深ぼることはない。
興味ないんかな。
そう思うと、サヤカさんはまた竿を海に向かって投げる。
「ま、みんな色々抱えて生きてるんだよ。
大きくも小さくも、ね。
のんすけも万引きしてここに来ちゃったわけだし。」
「だから違うって」
「でも何かの犯人っぽいね。」
「犯人ちゃうし」
「ふふ、でも人生変えたくてここに来たんでしょ?」
「……………」
「違うことはちゃんと否定するけど、図星なことは黙る癖があるんだね。」
麦わら帽子を深く被ったサヤカさんは、俺の方を向いて笑った。
「ここはのんびりできるし。ま、好きなように暮らしなよ。
でもこっちも生活があるから。
働いてもらわないと困るよ?」
「…わかってます。家賃くらいは払います。」
船がだんだんと大きくなってきた。
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作者名:きい | 作成日時:2021年8月29日 23時