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車内に会話はない。
堂々と運転席でハンドルを握るこの男は、世間的には自分が死んだ事になっているのを失念しているのではないかと、降谷は白けた視線を向けそうになる。
そもそもなぜこうなった。
そして、この車はどこへ向かう。
一時間ほど走っただろうか。
車はある建物の敷地内に入り、明らかに正面からではなく、裏通用口を抜け地下駐車場に車を停めた。
外観からもそこが何の建物かはわかっていたが、自動ドアを抜けた瞬間に消毒液の独特な匂いが鼻を掠める。
赤井は何も言わない。
ここまで付いてきたからには、今更ここで引き返す訳にもいかず、不満ながらも降谷は赤井の後ろを歩く。
途中エレベーターに乗り、その後はひたすら長い廊下を行く。
「本当は、君にすぐ伝えるべきかとも思ったんだが…何しろ、危険な状態でいつどうなってもおかしくない状況だったんでな。
先程、ようやく危険な状態は脱したと連絡が入った。」
続く廊下の途中、あるドアの前に男が立っていた。
そのドアの前に辿り着く。
扉を守る様にして立っていた男は、赤井に一礼するとその場を去っていった。
赤井がドアに手をかける。
「意識を取り戻す確率は、医学的には50:50だそうだ。
それでも…生きてさえいれば。」
先ほどの桂木といい、目の前の赤井といい…
ここが病院だとわかった瞬間から、期待していなかったと言えば嘘になる。
「あちらに彼女は居ない。
だから、君には生きていて貰わないと困る。」
開け放たれたドアの向こう。
夕日が差し込む広い個室。
再びモノクロだった降谷の世界に色が差す。
あの日から、ずっと彼女の名前を口に出せずにいた。
降谷にとって、何よりも特別な意味を持つその名前は、その光景を見た瞬間、すんなりと口から零れ出した。
「A…」
光で、前が見えない。
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虎鉄(プロフ) - まみこさん» まみこ様、私こそ深夜にすみません!こちらにまで涙。一気読み+コメントする時間まで割いて下さり本当に有難うございます!松田氏なりに降谷氏とは違う道を進むのでお付き合い下されば嬉しいです。大切に書いた話なのでそう言って頂けて感無量です。 (2022年7月24日 0時) (レス) id: 4e898d55ea (このIDを非表示/違反報告)
まみこ(プロフ) - 応援してます!!本当にこの作品は神です!! (2022年7月16日 1時) (レス) id: 9d3f4398ec (このIDを非表示/違反報告)
まみこ(プロフ) - こんばんは!!真夜中にすみません💦一気読みしました!マジで感動しました!!あー、夢主ちゃん良かったね!!と、保護者のような気持ちで読んでましたねw松田さんのほうも読んでます、頑張ってくださいね!! (2022年7月16日 1時) (レス) id: 9d3f4398ec (このIDを非表示/違反報告)
虎鉄(消えた捜査官松田ver作成中)(プロフ) - ひゆめさん» ひゆめ様、一気読みのお時間頂戴しまして……!かつコメントまで下さり本当に有難う御座います。クロサギ懐かしいですよね(^^)当時は全く意味分からんまま見てましたが笑。読んで下さってありがとうございました(^^)!2と合わせての返信で失礼します。 (2022年6月12日 10時) (レス) id: 4e898d55ea (このIDを非表示/違反報告)
ひゆめ(プロフ) - 同じく一気読みしました!!クロサギ懐かしいと思いながら進めていたら凄く惹き込まれました。とても面白かったです。 (2022年6月12日 0時) (レス) @page50 id: 141a54d8d9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:虎鉄 | 作成日時:2018年6月2日 0時