【名探偵コナン】消えた捜査官4【降谷零】

153 ページ36

「お前も奴と同じ、殺せば終わりだと思ってる。」

ナイフを握る自身でさえ、その矛先が直前までどちらに向くのかAには分からなかった。
目の前の仇を殺すことも出来ず、自ら死ぬ事も出来なかった。
ここに居る限り、もう2度とチャンスが訪れる事はないだろう。

詐欺事件の立件の難しさは散々授業で教わった。
ましてや、被害者である父親が既に加害者として処理されているだろう現実を前に、追い詰められたAに残された道は１つしかなかった。

「…詐欺師の情報を売って欲しい。」

父親を騙した詐欺師を見つけ出し、復讐する。
目の前の桂木とて、逃がすつもりはない。





しかし、暫く経ってAはあの日何が起こったのか、あの日の本当の真実を思い出す。

父は詐欺になど遭っていない。
そもそも復讐するべき詐欺師なんてこの世に存在しない。

自身が追い続ける安藤の不正と、あの男、そしてあの事件がどう関係しているのかはまだ分からない。
けれど、父は、家族は、あの男に殺された。
復讐するべきは、己が信じた正義の中に居た。

「どうして、桂木は仇だなんて嘘をついてまで…」

桂木の意図は分からなかった。
少ないやり取りの中でも、桂木はとんでもない食わせ者だという事はなんとなく察していた。
Aを助けたのか、だとしたらどうして。
いや、ただ気まぐれに生かしただけなのかもしれない。
それは桂木にしか分からない。

しかし、好機だと思った。
どの道、警察官として生きる道は残されていない。
Aは桂木の影に身を潜めながら情報と証拠をかき集め、再びあの男に相見えるまで死ぬ訳にはいかない、生きていくと決意した。
詐欺師が蔓延る、この暗い世界で。

154→←152

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す