【名探偵コナン】消えた捜査官【降谷零】

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「雨も滴るいい男って、貴方みたいな人の事ですかね」

「…っ‼…何でしょうか？」

沖矢の顔の下で、赤井は一瞬にして自身から溢れ出そうな殺気を慌てて押し殺し、さも平然とした顔で女に向き合った。
気付かれぬ様に、左手の荷物を右に持ち替える。

「もし良かったらこれ使って下さい。」

女が差し出したのは、雨に濡れた髪を拭く為のハンカチなどではなく、なんの変哲もないただのマスクだった。

「……」

「あ、未使用なので大丈夫ですよ。」


そういう事ではない。
女の意図がまるで分からない。
困惑する沖矢に女はこう言った。


「とりあえず…この場では私の言う事を聞いておいた方が得策ですよ。
…では。」

未だに訳のわからない様子の沖矢を置き去りに女は歩き出した。
このままやり過ごすか…女を引き止めるか、沖矢の左手の先がピクリと空を彷徨ったその時、女は再び沖矢を振り返った。


「それ、今度私にも教えて下さい。あ、あと…彼の事、あんまりいじめないであげて下さいね。」


一礼した女は今度こそ背を向けて歩き出した。
残された沖矢は、その後ろ姿をじっと見つめるしかなかった。
女の髪が風に揺れている。
彼女は雨になんか濡れてはいなかった。

(彼女は一体…)







受け取らざるを得なかったマスクからは盗聴器も、薬品の気配も何も感じられなかった。
得体は知れなかったが、どことなく女と同じ雰囲気を持っていた遠い故人を思い出し、赤井は女の言う通りマスクを付けた。

女の真意に気付いたのは、工藤邸に着いてマスクを外し、バスタオルを取りに洗面所に赴いた時だ。
ふいに鏡に映った沖矢の顔を見て、赤井は全てを理解した。


(雨で変装が一部剥がれ始めていたのか…)


ー『今度、私にも教えて下さいね。』ー



「ホー……」
(面白い。)



自然と笑みが零れた。

雨に濡れて後悔？……とんでもない。



たまに雨に降られるのも、悪くない。

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