【怪盗キッド】奇術師と道化師

第33話 ページ38

Aのことが心配で授業も頭に入ってこない。
幸い今日は学校が早く終わる日なので助かった。

「快斗どうかしたの？」
「……ああ、別に何でもねーよ」
「変な快斗〜、いつもならキッドキッドって大騒ぎしているのに。昨日は瞬間移動したんだっけ」
「……らしいな、さっすが天下の怪盗キッド様だ」

考えたってしゃーねーな。
青子にまで心配かけちまうし。

「それで？ お前のお父さん――ヘボ警部はなぁーんにもできなかったんだろ？」
意地悪にそういうと青子は安堵したがすぐに怒り出す。

「そんなことないわよ! きっと今日こそは怪盗キッドを捕まえて見せるわよ、だって青子のお父さんなんだから！」

その自信はどっからくるんだ……。ハハハと笑うしかなかった。

　＊ ＊


家に帰るとAはまだ寝ていた。
一瞬、最悪の事態が頭をよぎったがそんなことはなかった。

「A、起きろ」

少し体を揺さぶると数度瞬きをしてAは目を覚ました。

「……Good morning」
「いやafternoonだ……それより」

俺は本題に入る。

「この傷はなんなんだ？ おめえいったいどうしたんだよ!?」

Aは下唇をぎゅっと噛み締め、俺から視線を外した。
何もないところを見つめ、頭に手を当てた後

「どの傷ですか？」
と微笑んだ。

その笑みはとてつもなく不気味に感じる笑みだった。

「どの傷って……お前の体の傷だよ！」
「体の傷ぅ〜？ やーH！」
「はぁ!? ふざけてんじゃねーよ！ この腹の痣とか……って、え？」

Aの服を無理やり剥ぐようにして腹の痣を確認しようとしたが……なかった。
その痣だけじゃない――頭の血が流れていた傷も、首の注射後も、手足の腫れも！

「どうなってんだ……」
あの傷は幻覚だってのか？ でも俺の手に確かに血はついたし……。

「きっと快斗さん、疲れているんですよ」

まるでAは他人事のように言う。
何が何だかわからない……。


「今日もショーやるんでしょう？ ほらもう寺井さんのところ行かないと間に合いませんよ」
「ああ……そうだな」

俺は……俺は……――やめた、もう考えない。
きっとそのうち、わかるはずだ。

今は、今夜の仕事に集中だ。

――Aはまるで俺のすべてを知っているみたいに振る舞っているけど。
俺はAのこと何も知らねえんだ。
わけわかんないことが起きたって不思議じゃない。

そう自分に言い聞かせて、仕事道具をもってジイちゃんの家に向かった。

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