【怪盗キッド】奇術師と道化師

第25話 ページ29

一足先に黒羽邸についた私はテレビをつけ、ソファに腰を下ろした。
合鍵なんてもらってないが、家に入ることは容易だ。
ピッキング以前に、まず2階の窓が開いていたのでそっから侵入った。

テレビではなんと驚くことに江戸川コナン――工藤新一が取材を受けていた。
いつも通り、キッド登場シーンを繰り返し放映してるかと思ったけど……？

≪怪盗キッドには逃げられちゃったけど、宝石――『大海の奇跡』はコナン君が取り返したんだよね？≫

アナウンサーの質問……ん？ 今なんて？ 『取り返した』？
え、なにじゃあ失敗したのかな、快斗さん。

≪違うよ〜、キッドがあきらめてくれたんだ≫
≪でもそれはコナン君のおかげだよね〜すごいですね、毛利探偵！≫
≪いや〜〜、それはこの俺の日ごろの教育の賜物です≫

テレビを電源ごとぶちぎって、快斗さんに電話をする。

プルルっとコール音がした後、つながったかと思えば残念、留守番電話サービスだ。
『お名前とご用件を発信音の後に――』

「ま、いーや」
私は携帯を放り投げ、ソファに身を投げる。
な〜んだ、快斗さん失敗したのねえ。

……ざまあ！！！！！

私は日本に来て初めての飛び切りの笑顔になったと自覚するぐらいのスマイルになったと思う。

「ははは……――っ! あはははっ！」
さすがに狂ったような笑い方はしなかったが、涙が出るくらい笑った。

確かに私は快斗さんとか――怪盗キッドを手伝うし、あの盗みの技術はとても素晴らしい！
尊敬に値する！ でも！

私が好き――好意を寄せているのは『工藤新一』だ！
『黒羽快斗』が『工藤新一』に負ける、なんて最高じゃないか。

嫌いな人が好きな人に負けるんだ。
好きな人が嫌いな人に勝つんだ。
こんなに喜ばしいことなんてないだろう！

――まあこれ快斗さんがいる前じゃやらないんだけどね、やったら殺されそう。

「工藤新一ばんざーい！！！」


　＊ ＊

結局快斗さんは夜中過ぎに帰ってきた。
体のいたるところに黒い煙の跡がついて、ところどころ擦りむいている。

「大丈夫ですか？」
もちろん、さっき私が『キッド敗北おめでとう会』を一人でやっていたのは内緒だ。
「これが大丈夫にみえっかよ! あんにゃろ、俺を殺す気かよ！」
「殺す？」
「次はこうはいかねえからなぁ……」

私は軽く笑ったが、内心大笑いで笑い死にしそうだった。
次は快斗さん、どんなショーを計画するのかな？

---驚異の空中歩行編 FIN---

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