【怪盗キッド】奇術師と道化師

第38話 ページ43

「ジイちゃん！」
「坊ちゃま、お疲れ様でございました……今日のお仕事は大変でございましたね」
「んなこといいから、これどーにかしてくれよぉ！」

俺はジイちゃんにマントの染みを見せる。

「ケチャップみたいな。こんなのいつどこでお付けになられたのですか？」
「知らねーよ! 気づいたらついてたんだ！ Aに言われなきゃ気づかなかったぜ」

Aの名前を出すとジイちゃんが少し眉に皺を寄せたがすぐ「左様ですか」と言った。

「これなんとかしといてくれ！ 次の仕事までに！」
「かしこまりました。この寺井、尽力いたしますぞ」
「さんきゅ。あとさ」

少し言い出しづらかったものの俺は「Aのことなんだけどさ」と話を続けた。
いたたまれない表情をジイちゃんはしたが「どうかされましたか？」と促す。

「Aは――Aは悪い奴じゃないよ。俺達の敵でも何でもないし、寧ろ味方で理解者で――それでえっと」
「坊ちゃま？」
「警戒するほどのやつじゃねーと思うんだ、確かにあいつのことはまだわっけわかねんねーし、知らねーことだって多いし、でもさ悪い奴じゃないと思うんだ、絶対」

俺だって自分で何言ってるのかわからねえ。
Aがもしかしたら――なんてこともあるかもしれない。

「根拠もねーし、あいつが確実に俺達の敵じゃねえって確信もねえよ。でも――」
「でも？」
「なんつーか……その信じてみよう的な、じゃなくて、こう」

そこで言葉が詰まる。
『信じてみよう』ってなんだよ！ えーと。

「分かりました」
「え？」

ジイちゃんの突然の承諾に俺は驚く。

「坊ちゃまがそこまで言うのなら、Aさんの件、なかったことに」

俺よく考えたら何も言ってねえな、なんて思ったけど、結果オーライ？

「ありがと、ジイちゃん！」

　＊ ＊


「根拠もねーし、あいつが確実に俺達の敵じゃねえって確信もねえよ。でも――」

ベルモッドと別れ、店の前で張り込むようにこの話を聞いてしまった。
耳は残念ながら昔から良い方。

「快斗」

思わず彼の名前を呼ぶ。

「なんつーか……その信じてみよう的な、じゃなくて、こう」

信じてみよう的なってなんだ。
笑っちゃうね。そういう所は工藤新一とは違う気がするな。

建物の隙間からでも月が、星が――空が綺麗な夜だ。

「Thank you very much, Mr. kaito. And I protect you.」

私はタイミングを計らってお店の中に入る。

「――お疲れ様です！」

笑顔で！



---瞬間移動魔術編 FIN---

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