奇病棟脱出ゲーム

　第十七話　青い妖精 ページ19

清志くんのお父様の日記を見つけてから、数日が経った。まだ最後までは読めていない。清志くんのお父様のお父様(つまりお祖父様)が少しずつ廃人と化して行くにつれ、お祖母様の目が赤く腫れ、叔母様の身体が小さな花畑に変わって枯れて行く様子があまりにも鮮明に書かれていて、夜眠れないか酷くうなされるかの二択になってしまったからだ。

「ミャ〜(麗、起きて。また新しい患者さんが来たようよ。)」

「んん…おはよー…」

　寝巻を脱いで、着物…いや、うららがこっそり買ってきてくれた手芸用品で着物の下部分を切り落とし、すかーとに作り変えた、通称「袴もどき」を着る。別に洋服を着ても良かったのだが、何だか私は和服を着ていないといけないような気がしたのだ。

　…それにしても、下が騒がしいな。また新しい患者さんでも来るんだろうか。そろそろ名前を覚えられなくなってきた。
　それか、職員さん？今のところ職員さんは三人いるが、そのうち一人はむしろ仕事を増やしているし、事務系のお仕事もあるだろうし、絶対に忙しいはずだ。家事は私たちも手伝っているけれど、それでも他の仕事がどっさりあるはず。

「一実さん、水萌さんと時雨さんの収容準備が出来ました。」

　あ、峯ちゃんだ！「収容」って事は、患者さんか。いよいよ覚えられないかもしれない。

　が、その心配は杞憂に終わった。二人の容姿が目に張り付いて離れなかったのだ。

　一言で言うなら、妖精の姉妹(姉妹ではないだろうけど)。それも、綺麗な青い妖精さんだ。

「こんにちは、水萌夕空です。よろしくお願い致します。」

　薄い青…白藍？の髪で、色の濃いところがある。目は左右で壱倉さんみたいに左右で色が違って、髪の色と綺麗な緑だ。なぜかバッテンがあるように見える。水面…ぴったりな名前だな(後で扉の札を見たら水『萌』でびっくりした)。

「こ、こんにちは。時雨結衣…です』

　こっちの妖精…いや、人は雪景色みたいだ。真っ白な髪で、毛先が水色。目も透き通るみたいに水色だから、綺麗な雪解け水を眺めてるみたい。しぐれ…こっちも名前に『雨』が入ってるのか。

　二人の寝室は、手前から七番目の列の両側だった。夕空ちゃんの隣にローズブレイド姉妹が来るみたいだ。

　…私が怖くて行けなかったあの曲がり角には、まだまだ遠かった。
　

　

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