宮侑とブーゲンビリア ページ6
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ある日の昼休み。別棟の空き教室に手紙で呼び出され、俺はイライラしていた。
呼び出された場所に着くと、名前も顔も分からない女。
「(…どうせ振られるってわかってるやろ、こんな遠い所まで呼び出すなや)」
告白される言葉に被せるくらいの勢いで断ると、泣きながら走って教室を出ていかれた。
心の中で溜息をつき、頭がガシガシ掻きながら教室から廊下に出ると、どこからか楽器のような綺麗な音が聞こえてくる。
綺麗な音に吸い込まれるように足を向けてみると、それは廊下の一番奥の空き教室から聴こえてくるようだった。
「(こんなとこで誰が……Aさん?)」
チラッと教室の中を覗いてみると、そこには窓側に腰掛けて、フルートを弾くAさんの姿があった。
その表情は、とても穏やかで。
フルートを弾きながら時折ゆっくりと瞬きする瞳は、愛おしさのような、恋するような甘いものを秘めていた。
俺は咄嗟に、俺と似てる。と思った。その瞳は、動画の中で見た俺がバレーをプレーしているときにしてる目と一緒やった。
「(綺麗、やなぁ……)」
北さんから紹介されて以来、すれ違い様に挨拶することは時々あったが、彼女はいつも優しい笑顔を浮かべるばかりで、こんな女らしい表情を見るのは初めてだった。
やわらかい風に靡く髪の毛、日差しが薄らと差し込み、ふわふわとした淡い雰囲気を醸し出している。
フルートから出る心地よい音とAさんの姿に陶然と酔いしれていると、気付かぬうちに扉に近づいてしまい、ガタッと音を立ててしまった。
『誰か、いる?』
フルートの音が止み、Aさんがこちらを窺うように窓際からじっと見つめる。
一瞬立ち去ろうかと思ったが観念して、教室の扉をガラッと開け、空き教室の中に足を踏み入れた。
「すんません、覗き見して」
『あ、侑くんか。全然ええよ』
少し眉を寄せて、いつものようにふわり、と優しく笑うAさん。
あ、いつもの顔に戻ってしまった。と思ったのも束の間、すぐにフルートに目を落とし、愛おしそうな目で見つめる。
そうや、その目や。その目をもっと見してくれ。俺に向けて、見せて欲しい。
「いつもここで練習してはるんですか?」
『うん、この時間帯なら大体おるかな』
「…また、来てもええですか?」
『!ふふ、ええよ』
一瞬驚いたような顔をした後、優しく微笑むAさんに少し胸が高鳴ったのはきっと気の所為やと思いたい。
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作者名:たみ | 作成日時:2021年10月3日 20時