好きから恋に【小森隼】

You ページ34

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「A」



あと少しで自販機に辿り着くというところで、さっきと同じように後ろから名前を呼ばれた。


応えちゃいけない、そう思う私の意思とは反対に身体は足を止めた。


そして、ふわりと香水の間に香る懐かしい匂いに、お腹に回ったあの頃よりも逞しくなった腕と背中に感じる温もり。


その一つ一つを辿ってようやく、自分が剛典に後ろから抱きしめられていることに気づく。



「い、岩田さん。何してるんですか、」


「今まで岩田さんなんて呼んだことなかったじゃん。」



不満そうにそう言えば、腕にさっきよりも強くぎゅっと抱きしめてくる。



「やだ、離して、」


「なんで。」


「もう、昔とは違うから、」


「…じゃあせめて、前みたいに俺のこと呼んでよ？」


「っ、剛典… お願い、離して。」



ゆっくりと腕を解いた剛典から離れて、何もなかったように自販機にお金を入れて水を買う。



「そんないっぱい持てないでしょ？手伝うよ。」


「…ありがとうございます。」



本当は断りたかったけど、少し運び辛かったから剛典の言葉に甘えた。



「敬語もやめてほしいんだけどな〜」


「仕事中なので無理です。」



きっぱりと断って、無言で歩き出せば横に並んでくる剛典。



「あのさ、Aにずっと言えなかったことがあるんだよね。」



返事をせずにいると、剛典のは勝手に言葉を繋いでいく。



「明日。仕事の後の予定空けといて。」



明日…？



「明日は予定が 「空けといてね。」


「ちょっと勝手に決めないで、」



もう一度断ろうとした時、運悪く控え室に到着してしまって剛典に私の声は届かなかった。



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